4月の現状

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4月1日、念願の2店舗目であるフヅクエ下北沢がオープンした。
去年の春から2店舗体制を構築するためにスタッフの募集を始め、夏から徐々にスタッフが増えていき、年末には政策金融公庫からの借り入れの手続きをして、今年に入ってからは下北沢オープンのためにひたすら動き続けた。かっこいい店ができた。
4月1日はひとつの「この日のためにここまでがんばってきた」という日であり、店がいくらか落ち着いたら箱根にでも行ってゆっくりしたいなと思っていた。ひとつの区切りの日であることは確かだった。
その晴れの日をあんなに陰鬱な気分で迎えることになるとは、その一週間前まではまるで想像できていなかった。日々刻々、状況と気分が深刻さに覆われていくのを感じた、そのピークが僕の中では4月1日あたりだったような気がする。よりによって雨の日だった。
ひとまず営業はすることにして、席は絞って最大3人とかかな、というつもりで営業した。ごく数人だったが来てくださった方はあって、その一人ひとりの存在に「これめちゃくちゃ救われるなあ」と思いながら、何度も泣きそうになりながら店に立っていた(座っていた)。
2日も営業し、3日は気持ちも体も限界に達してもう無理で閉めて、4日と5日はスタッフが店を開けてくれた。そこでおしまいにすることにして、6日からは期限を定めず休業とした(初台は1日を最後に休業にしていた。お客さんはゼロだったが)。
とてもスタッフに「働きに来て」と言える状況ではなかったし、とてもお客さんに「本読みに来て」と呼び掛けられる状況でもなかったし、僕自身もいろいろな恐怖にまとわりつかれていたし、疲れきっていて何も考えられなかったし。もう無理すぎてどんな判断もしたくない、という時がある。
店を完全に閉めていた1週間のあいだは、家にいたり、初台か下北沢のどちらかに行って仕事をしたりして過ごしていた。自炊や散歩が楽しかった。その間に「music for fuzkue」の配信リリースを進めたり、「#自宅フヅクエ」を日々やって、これはほんとにいいハッシュタグだなあと眺めたりしていた。
本の読める店のための音楽『music for fuzkue』配信開始のお知らせ
#自宅フヅクエ
14日から、下北沢だけポツポツと開けるようにして、とはいえフヅクエは完全に極端に滞在型の店だ。お客さんを入れるのは難しいと感じたため、ドリンクのテイクアウトだけで営業した。晴れの日だけ。夕方まで。空模様が怪しくなってきたら閉めて帰る。気晴らしにはちょうどいいところだったが当然、売上はほとんどなく、その日の酒代で消えるくらいだった。
気の抜けきった穏やかな日々にも見えた。僕や妻やスタッフがそこにいて、座って、仕事をしたり、たまに話したり、本を読んだり、そんなふうに過ごしていると、まるで部室みたいだと思った。弛緩した平和な時間で、このままずっと動き出せなくなるような気分にもなった。いっそこのままでもいいのかなというようなおかしな心地もあった。悔しさや怒りで何かをぶち壊したくなるような気分もやってきた。ふいに涙があふれることもあった。どんな感情がやってきてもおかしくないしすべての感情が正しかった。
2日で100万円の売上になり、結局4月は575枚(1,437,500円)もの購入をいただいた。大きな勇気と、大きな時間をいただいた感覚だった。
ところで昨日母からの連絡で、長崎県の小値賀という離島で「こんどおぢかに行く券」というのを発行している、ということを知って、「このネーミングは近いなあ」と思って僕はニタニタしていたのだったが、あとで調べてみるとこちらはフヅクエ券より前の4月10日に発売していた! そうと知れるとニタニタはまったく別のニタニタになって顔が真っ赤になるような、羞恥のニタニタに変わった。後出しだったのに、フヅクエが先だと勝手に思って、「ネーミングが参考にされたな〜」と思っていたのだから! あー恥ずかしい。
それはともかく、とにかくこのフヅクエ券の発売は大きなことだった。昨日、4月の売上を集計して、それからお客さんが使うときにすぐわかるようにリストを整理しようと、スプレッドシートをぽちぽちといじりながら、購入された方のすべてのお名前と、付されたメッセージがあればそれを、読んだ。名前と言葉が575行にわたってびたーっと並ぶリストを見ていると、もうなんだかすごい、これは、元気玉だ、というような気になって、むくむく勇気づけられた。これだけでも本当に、発売してよかったなと思った。
それと同時に、毎月末時点でのお金を記入して推移がわかるようにしているシートもあって、こちらにも預金残高であるとかを転記していった。すると3月4月と、預金残高が400万円ずつ減っていてふた月で800万円が消えていた。一瞬ヤバい恐怖がやってきて目を塞いだが、これは下北沢の工事のお金の大半が含まれていたし、もともと借り入れで増えていた1000万円、僕の金じゃない金があったわけだから、イマジナリーな金が増え、イマジナリーな金が減ったということで、つまりどういうことなのかよくわからない。それにまた、では結局、何によってどのくらいの金額が減ったのか、この4月の休業によってどのくらい何を被ったのか、この数字だけを見てもさっぱりわからず、つまり意味のない数字というか、意味を語り出しはしない数字が目の前にあって、漠然と、「ほーん」と思った。つまり何もわからなかった。何もわからなかったが、この140万円がめちゃくちゃに大きいことだけはわかった。
この、いただいたお金を前にして商売人の意識が働き始めたらしく、続けることを続けられるだけの金額を毎月上げていくために何をするか、本腰を入れて考えよう、と考え始めた矢先、4月の終わりの一週間は、思いつき人として、運営事務局メンバーとして参加したブックストアエイド基金の立ち上げにひたすら奔走した。起きているあいだのほとんどすべての時間をクラウドファンディングの開始に向けて費やしていた。この一週間で一年分くらい人と話したような気がする。その時間は、ものすごく気分が高ぶってハイテンションになったり、ものすごい落ち込み方をしたり、ジェットコースターみたいだった。激しく楽しい瞬間を迎えているとき、「僕らが楽しんでいいのか」という内なる不謹慎警察みたいなものが顔を出すときもあった。不謹慎警察は恐ろしい……明るくいられないとエネルギーなんて出るわけもないのに。
とにかく、こちらはプロジェクトが始まったばかりで、この輪が大きくなったらいいし、大きくしていくためにも、プロジェクト終了まではひたすらこのプロジェクトに尽力するだろう。
本屋さんを支えたい。 ブックストア・エイド(Bookstore AID)基金 - クラウドファンディングのMotionGallery
で、店、どうするんだろう、と思う。今、全然そのことを考えられない。その余裕がない。
緊急事態宣言が延長されるらしいけれど、その中で、どんなふうに営業する判断をするのか、全然わからない。あと何日かしたら何か考えられるだろうか。明後日くらいにスタッフたちと一度ズームでおしゃべり会議の時間を設けるので(すごく楽しみ)、そのときにいろいろ決まるかもしれない。僕一人だけでは、体が一つしかないということもあるし、決めきれないところがある。
ひとまず今月は、先日思いついた「#自宅フヅクエ」のウェブサービス化を実現したいな。
協力してくれるエンジニアの人を探すべくつくった仕様書みたいなものを(こんなものを作るのは初めてなので随所にド素人の所業だろうけれど)、見ているだけでウキウキして仕方がないので貼っておきますね。誤字見つけたが。
<a href='https://drive.google.com/file/d/1xnhp6ZCWxwDFc-puwhcLUEVqih9tWeB8/view?usp=sharing'_blank'>#自宅フヅクエ仕様書.pdf
5月の営業は、6日までは完全休業にして、それからは完全予約制でポツポツ、とか、どうかな、と漠然と思っているところです。そのあたりはまたお知らせします。
4月はそんな感じでございました。