今日の一冊

2019.12.10
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####平出隆『私のティーアガルテン行』(紀伊國屋書店)
2018年12月10日
帰宅後、最近の暗鬱について遊ちゃんに話す。それから、平出隆。いちいちが魅力的だった。歌の話。中学生のとき、遅刻したら歌をうたうことにしたらどうか、という案を提案した。
この案が可決されると、一日二日は、効果があるかの様子見としたはずであるが、すぐに私は、歌う歌を決めてから遅刻をするようになったものである。クラスメートにもだんだん、故意の遅刻が分るほどになったかもしれない。しかしそれは、私だけではなかった。毎朝、友だちの歌を楽しめる日々がはじまっていた。
或る朝、とうとう女先生まで、わたし遅刻しました、と自己申告する事態が起り、教室は沸き返った。私は彼女がなにを歌うのか、どう歌うのか、どきどきしながら、この企画の成功をひそかに喜んだ。
それは「ワシントン広場の夜は更けて」という歌だった。ヴィレッジ・ストンバーズの歌を、日本ではダークダックスやダニー飯田とパラダイスキングが歌った。女先生は才気煥発な文学少女のあとを隠さずにいて、なにをやってもあたりの空気を切るようなスタイルがあった。私ははらはらしながら、先生の歌いだすのを待ち、そして聴いた。 平出隆『私のティーアガルテン行』(紀伊國屋書店)p.110,111
それから中学校のときの文集の話。これがとにかく素敵だった。先生たちの、素敵な文彩。紙とペンの前に向かうとき、教師である前に一人の人間になる、そんなことがある時期、可能だったんだなと思った。ある時期なのか、ある場所でなのか。生徒たちの言葉もまた、瑞々しく、率直で、透明だった。
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