読書日記(165)

2019.12.08
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##12月1日(日)  昨日の夜、質問箱というかお題箱だけれどもそれを設置してツイートしたところ、さっそく2つ質問が来ていて、よかった。質問を見るとやはり、質問というのはいいものだな、と思って、最初にいただいたものもソファの予約とか年末年始の休みとか、答えたらそれがそのまま聴衆というか見ている人にとって意味のある情報になるものだし、そのあとにいただいた「1時間30分以内での退店で、席料がかからない、というのは出来ないですか?」という問いは、クリティカルな質問というか、答えることがフヅクエの思想みたいなものの表明になる。いいものだなと思って朝は寒く、遊ちゃんは早々と家を出ていた。今朝は森奈ちゃんと朝ごはんを、ホテルで食べる、という遊びをするらしくて、それはまたなんともいい遊び方だな、と思った。
11月の売上を出した。10月に続いて今年最低を更新した。完全な赤字。来年がんばろう、とマキノさんに言うと、12月から、と答えた。それで12月1日の営業が始まったら、度し難いほどに暇だった、あまりに暇で、座る以外にやることがない以上、俺がいるとマキノさん座れないし、いないほうがいいよね、ということにして、週末としては異例の早い時間にドトールに退避した、忙しくなって呼び戻されるのを待ってるよ、と言った。今日はまたあまりにも暇だね、と言うとマキノさんは、来年がんばりましょう、と言った。
ドトールで、質問への回答をつくっていた。けっこう労力がいるというか、頭を使う感じがあった、周到に、というたぐいの。その回答をつくっている途中で、それは離席中に入り口にわかるようにそういうことを書いた札を出しておいたほうがいいんじゃないか、入ってきてキョロキョロして帰っていった人を二度見たことがある、という質問というかありがたい提言で、そうか、と思って、扉横の文言を書き換えることにしてそれをInDesignでつくる作業に没頭した。マキノさんから連絡があって体調が悪くなってきてしまった、ということでここのところ喉をやられていて「治らないね」と言っていたがそこにさらに頭痛が生じた、早退してもいいか、ということだったので「ただいま戻ります!」と言って戻って、みかんと柿を渡した。座った。あまりに惨憺の日曜日だった。持ってきていた小島信夫を開いた。第35話というか回。最初の一段落。
こうして自分の家の応接間で踊っているのもいいが、それを許しているのは、ほかならぬ自分である、ということを忘れないでほしい。少々乱れているが、これもいたしかたがない。世の中が変って行くことは素直に認めないわけには行かない。それだから、自分はこうして笑っているけれども、決してこの顔つきほど喜んでいるのではない。心の底では妻の陽子は夫の永造がとまどっているのに気がついているが、自分もこの機会にたのしんだり若がえったり、そして確かにこの若い外国の客人をもてなしたりしようと思っているのであろう。そのためには、永造がこんなところにボンヤリしていないで、書斎に入って、早くすべきことをし名をあげ、金をもうけてもらいたい。何ひとつとして十分といえるものはないからだ。永造が顔をしかめているほど、その名が時々話題になったり、新聞に出たりするほどその仕事は世の中に花々しい実績をあげているわけではない。それにどこで、どの部分でほんとに私をたのしい充足した気分にひたらせてくれただろうか。いや、それはこの人には求めまい。この人に求めても仕方がないのだ。だからついでに私はたのしんでいる。邪魔しないでほしい。そう思っているのかもしれない。しかし、それを許しているのは、この自分だということを忘れるわけはない。忘れる理由は一つもあるわけはない。永造は他人が見るように妻の身体を見ていた。 小島信夫『別れる理由 Ⅰ』(講談社)p.340
こんなところにボンヤリしていないで、書斎に入って、早くすべきことをし名をあげ、金をもうけてもらいたい。永造が顔をしかめているほどその仕事は世の中に花々しい実績をあげているわけではない。そう思っているのかもしれない!
このあと息子が玄関に靴を脱ぎ捨てていてそれを直しなさいと前のところで言っていたがはたして直しに行っただろうか、ということを巡ってあれこれ考え続ける、靴を直しに行ってワックスを塗ったりすらする、それを知らせたいと思う、でもあんなことはしないほうがよかったと思う、玄関に戻ってまた元の状態に戻そうかと思う、それで35回は終わって全部のページがおもしろくてびっくりするほどおもしろかった。その次は応接間に靴を持って入って道化じみた振る舞いをしてそれを読んでいるときの笑顔が凍りつく感覚は『ただ影だけ』の演説の場面みたいで、やはりずっとおもしろかった。凄い。と思ってから、それにしてもあまりに暇で、休日の目標値の半分とかだ、8月とかまでの半分とかだ、頭では、いいよ、来年がんばるよ、来年いいようになるようにがんばるよ、と思っているが、気持ちはついていかなくてただただ心細い。めちゃくちゃに心細い。
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##この週に読んだり買ったりした本
柳原孝敦『テクストとしての都市 メキシコDF』(東京外国語大学出版会)https://amzn.to/37jdlLM
小島信夫『別れる理由 Ⅰ』(講談社)https://amzn.to/2WSu2IY
橋本亮二『うもれる日々』(十七時退勤社)
『kaze no tanbun 特別ではない一日』(柏書房)https://amzn.to/2roHqZU
吉田健一『時間』(講談社)https://amzn.to/2GdR34I
林伸次『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』(旭屋出版)https://amzn.to/35G8p1G