##11月22日(金)
雨。靴、どうしよう、と思って、ランニング用の靴を履いて、コンバースはリュックに入れた。ランニング用の靴は見たらニューバランスで、そうか、ニューバランスだったのか、と思って、それで店に行ってちょこんと座っていると佐藤くんがやってきて冬の格好で、ふと目が足もとに行って珍しく革靴を履いているのが見えたから「お、革靴だ」と言ったら履き替える用のスニーカーはリュックということで、同じことしてる、と思って、また、革靴のほうが濡らしていいやつなんだな、と思って愉快だった。どういうことなんだ? それはかっこいい様子の革靴であとで聞いたところ父親からもらったものだそうで、少しサイズが合わないということだった。息子に自分の靴をあげるお父さん、かわいい、と思ってそれは夕方の話だった。
店が開き、ちょこちょこと働いていた、僕は主に座って事務仕事をしていて事務仕事というものは永久に終わらないような気がしてずっとやっていた、トークイベントの告知のページとメルマガのことと、いくつかのメールに返信したり、それだけのはずだがそういういちいちもいちいち時間が掛かるというのはそれはそうで、終わらず、夕方になって佐藤くんの断乳みたいな、断乳訓練というのだろうか、離乳? 徐々に、離れる、というそういうことでドトールに出た。
無理なんだけど
寒すぎてちょっともう無理なんだけど
もう無理なんだけど
もう無理
ほんまに寒いから
大きな声でそう繰り返す男があって、しかしたしかに寒かった、ドトールは今日はやけに寒くて首筋にすーすーと冷たい空気がずっと当たっているような感じがあって寒かった、そこでまた仕事を続けてやっていた、そろそろ戻ろう、と思って立ち上がると隣の席に座ったスーツのおっさん3人組の声が聞こえた。
今日お話をうかがって、信用を大事にはされていないんだろうなという印象を持ちました。
ヒリヒリした話かな? と思って着席した。お金だとかそういうことだけだと、うまくいかなくなるんだろうなと。だからお互いに儲かるときもあるだろうが、相手が困っているときは助けてあげたりすると、自分が困ったときも助けてもらえる。そういうことに価値がある。ダメそうだね。これ以上お互いに関わっても経費も掛かるしあまり意義がないと思いますよ。
店に戻って、少しずつ一人で立つことに慣れてきたようだった、いただいたお菓子を見るとクッキーが2枚あったから佐藤くんと食べた、おいしくて、え、なんだろうこの味、めちゃくちゃおいしい、と思いながらバクバクバクバク食べていたら、佐藤くんは少し食べると残りを袋に収めて、どうやら恋人に持って帰るようだった、そう理解した瞬間に胸が締めつけられるような、キューンとした愛おしい気持ちがいっぱいになって、それから遅れて恥ずかしさのようなものがカーっと上がってきた。僕は、バクバクバクバク、おいしいおいしい言いながら食べるだけだった。さらに言えば、いただいたお菓子の入った袋を覗いたときに、クッキーと、それから、アップルパイのようなものが見えて、「お、こっちはシェアしにくいな、やむを得ないな、これは俺が一人でいただこ」と思って、アップルパイのようなものがあることは一切匂わせず、クッキーをいただいたよ、分け合おう、みたいなそういう顔で佐藤くんにクッキーを渡していた!
自分の食い意地をしばらく恥ずかしく思っていると入れ替わるようなタイミングで西野くんが文庫本を片手にやってきてコーヒーを飲みに来た、帰り際に少し話すと引っ越すことにしたらしく、なんだその行動力、と愉快に思った。夜、忙しい金曜日の夜になった、それはとても久しぶりのことのように感じて息をつく間もなく働き続けてずっと強い雨で、外に煙草を吸いに出るのが大変だった。苦労しながら煙草を吸った。
閉店して、どうしてだかパソコンから大きな音で流した国会答弁を聞きながら片付けをしていた。そのまま見ながら飯を食った。痛快とか、やっつけたような気になっているうちはダメなんだろうなというかつい、溜飲が下がる感覚があるのだけど、それでいい気分になっているだけじゃなにも変わらないんだろうなと思った。
帰り道、歩きながら、考え事。ツイッターで青山ブックセンターが青山ブックセンターコミュニティというものを始めるというのを見かけて、それについてというのか、それを考えていたらフヅクエのことを考え出して、考えていた、歩いていた。
うろうろと歩き立止ったりして女を眺めていた。電車に乗ろうとして駅へ近よった。その駅を利用したのははじめてで、家へ帰るコースのことを考え、そのあたりのバスの停留所へ歩いて行き、どちらにしようかと迷った。そしてまた電車にしようと駅へ戻った。階段を昇って行くとフォームからどやどやと人が降りた気配がし、階段をかけ降りてくる若い男や女が彼にぶつかってきた。腕と脇腹がいたんだ。フォームへ出てから「降り」の方を昇ってきたのか、ふりかえってみたが、彼は間違えてはいなかった。
彼は不快で不快で仕方がなくなってきた。ぶつかられたためではない。この不快さは一度起ると、いくらつくろっても三十分や四十分はもとへ戻らない、と思うようになった時には、一時間以上たっていた。そして家の近くまできていた。だんだんと不快は不満に高まってきた。
小島信夫『別れる理由 Ⅰ』(講談社)p.251,252
寝る前、小島信夫。変なテンションの教師の女との会話が続いて、それが終わり別れて、不快が不満に高まって終わると次の回でいきなり不倫をしていて驚いた。13年間にわたる連載、というのが意識にこびりついているみたいで回が次に行くたびに、回というか章だろうけれども、回、という感じがして、それでそれが次に行くたびに、次の月、という感覚になっているのが新鮮な感覚だった。今は25で、だから連載が始まって2年が経った。
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##この週に読んだり買ったりした本
山縣太一、大谷能生『身体(ことば)と言葉(からだ) 舞台に立つために・山縣太一の演劇メソッド』(新曜社)
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高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)
https://amzn.to/2QzjpcY
柳原孝敦『テクストとしての都市 メキシコDF』(東京外国語大学出版会)
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