####パオロ・コニェッティ『帰れない山』(関口英子訳、新潮社)
2018年11月13日
パオロ・コニェッティ『帰れない山』を読み出した、少年がいて、活発でやさしい母親がいて、頑固で山好きの父親がいて、ミラノで暮らして、山に別荘を借りた、そこで少年は、友情を育んだり、山を愛したり、した。山のふもとの彼らの夏のあいだ暮らす村は寂れる一方で、住んでいる人はもう数えるほどだった、そこで出会ったブルーノと、歩いた、探検をした。
窓外の景色を眺めていると、広がる光景はとっくに静かな鄙びたものになっていて、紅葉しかけた、あるいは枯れかけた葉をまとった林というか森というかがあり、木と木のあいだから同じような色合いの田んぼや、電線や、ぽつんぽつんと家の建つ集落が見えた。
そんな村の中心に、周囲の家々よりもはるかに現代的で、威厳を感じさせる建物があった。三階建てで、壁は漆喰で白く塗られ、外階段や中庭まである。まわりを囲む塀の一部が崩れていた。僕らはそこから、庭を覆いつくすようにはびこる灌木をかきわけて中に入った。一階の入り口には鍵がかかっておらず、合わせてあっただけの扉は、ブルーノが押すとあっけなく開いた。そこは薄暗い玄関ホールになっていて、木製のベンチと外套掛けが設えられていた。それがなんの建物かはすぐにわかった。おそらく学校というものはどこも似通っているからだろう。ただし、そのグラーナ村の学校は、いまでは灰色の大きな兎が数羽飼われているだけだった。一列に並べられた小屋のなかから、怯えた様子でこちらの動きをうかがっている。教室には、麦わらや秣、尿、もはや酢になった古いワインの大瓶ダミジャーノが何本か転がっていた、とはいえ、壁から磔刑像をはがして持ち去ったり、教室の後方に積みあげられた机の板を割って薪にしたりする無法者はさすがにいないらしい。
パオロ・コニェッティ『帰れない山』(関口英子訳、新潮社)p.34,35
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