##7月24日(水)
昨日ジョンさんから送られてきた記事をGoogle翻訳に掛けてみるとだいたい読めて「本屋を消し、また、描く」というタイトルだそうでそれは素敵なタイトルだなと思って、だいたい読めて、フヅクエはどうやら「후즈쿠에」と書くみたいでGoogle翻訳上だと「フーヅクエ」となっていて、出てくる本屋は見た限りB&BとSPBSとtoi booksと文喫とかもめブックスと、どこだったかな、そんな感じで、フヅクエは「挑発的な」という言葉から説明が始まっていて少し事実誤認もあったが面白かった、「책방을 연 아쿠쓰 다카시는 이렇게 생 각했다. 」、これは「本屋を開いたアクリル書き隆はこう思われた。」と訳されていて僕の名前は「アクリル書き隆」だった。よかった。
仕込みらしい仕込みは今日は大してないため隙間の時間はずっと原稿に向かっていたが、あまりはかどらない、なんとなくイライラすることの多い日で、イライラする。昨日ツイッターで見かけた、有名なお店が店主が頭がおかしくなっていっているらしくて店の衛生状況がやばい上に「このうつわ素敵ですね」みたいなことを話しかけたら「お前らみたいなアート好き気取りのための店じゃねえんだよ、出ていけ!」みたいな感じで、ブチギレてくる、というそういう話で、レビューをいろいろ読みに行ったら同じようなものをいくつか見てかなり壊れている感じだった、僕も存在は知っている店だった、それを思い出した、店は簡単にこうやって壊れるし人も壊れるんだよな、と思う、僕も危ういタイプだろうともとても思う、だから、壊れゆく人を見て笑ったり呆れたりする前に重い気持ちになるところがあって、人はいればいるだけいいな、と思った。もちろんいればいるだけのわけはないけれどいることは大事だな、と思った。
8時、原稿は今日はもう無理で、疲れ、眠気に襲われた。読書にすることにして『酔っぱらいの歴史』を飲んだ。間違えた。読んだ。イン、タヴァーン、エールハウス。インとタヴァーンは高級なところでシェイクスピアはそこにいた。
残念なことだ。文豪たちも、下々の者たちと肩を組んで千鳥足でパブから出てくるような気さくな人間だったと、われわれは思いたがるものだから。ものすごくたくさんのパブが今日、ジョンソン博士からの次のような引用を、店内に掲げている。「よいタヴァーンやインほど多くの幸せを生み出してくれるものを、人類はいまだほかに考案してはいない」。
マーク・フォーサイズ『酔っぱらいの歴史』(篠儀直子訳、青土社)p.147
なんだかドキッとした。名探偵に指摘されたみたいな気分だった。パブの前身こそがエールハウスでエールハウスは庶民の場所でタヴァーンやインに行く人たちが踏み入れる場所ではなかった。ここで無視され斥けられている存在であるパブにこの言葉が掲げられている、ということにドキッとしたし面白かった。この本は面白い。
それからルシア・ベルリンに移行して、読んだ、ふと本のつくりが気になって、カバーを取って見ると、あれ、これもフランス装というやつ? というやつで、違うのかな、よくわかっていなくて、それから、見ると、あれ、これはあの植本一子のやつに似ている形の気がする、もしや加藤製本か? と、当てずっぽうというか製本会社の名前なんて加藤製本くらいしか知らないわけだけど、あとは篠原紙工、思い、奥付を見るとそこには「加藤製本」とあった。正解! きれいな本だった。
深くて暗い魂の夜の底、酒屋もバーも閉まっている。彼女はマットレスの下に手を入れた。ウォッカの一パイント瓶は空だった。ベッドから出て、立ち上がる。体がひどく震えて、床にへたりこんだ。過呼吸が始まった。このまま酒を飲まなければ、譫妄が始まるか、でなければ心臓発作だ。
こういうときの裏技、呼吸をゆっくりにして心拍数を落とす。ボトルを手に入れるまで、とにかく気を落ちつけること。まずは糖分。砂糖入りの紅茶だ、デトックス施設ではそれが出る。でも震えがひどすぎて立てない。床に横になり、ヨガみたいにゆっくり深呼吸する。考えちゃだめ。今の自分のありさまについて考えるな、考えたら死んでしまう、恥の発作で。呼吸がゆっくりになってきた。本棚の本のタイトルを読みはじめた。集中して、声に出して読め。エドワード・アビー、チヌア・アチェベ、シャーウッド・アンダーソン、ジェーン・オースティン、ポール・オースター。飛ばさずに、ゆっくり、一つずつ。壁の本をみんな読んでしまうと少し楽になった。そろそろと立ち上がる。震えがひどくて両足がなかなか動かない。壁に手をついて、やっとキッチンまで行く。バニラエッセンスはない。かわりにレモンエキス。喉がチリチリ焼けて吐きそうになり、口をぎゅっと閉じて押しもどす。紅茶を淹れて、ハチミツを山ほど入れ、真っ暗ななか、少しずつ飲んだ。あと二時間、六時になればオークランドのアップタウン酒屋がウォッカを売ってくれる。
ルシア・ベルリン「どうにもならない」『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』(岸本佐知子訳、講談社)
p.116,117
ちびちび、上等の酒を飲むような気分、などと言っていたが、プロフィールを見るとアルコール中毒に苦しんだ人らしく、ちびちび上等な酒どころではなかった。
閉店の時間になって、今日は閉店後に先週あった取材の撮影があった、夜を撮りたいらしくて、夜だと閉店後しか無理ですとお伝えしたら、最初は昼間にしようかと言っていたがやはり夜でということになり今日の夜になった、それで編集の方とカメラマンの方がいらして、写真を撮っていった、定食とアイスコーヒーをお出しして、僕は「売上」と思った、月曜火曜が目標値より少し低い数字で続き、今日が忙しく、あと一人来られたら月火のマイナス分をちょうどカバーできる、となっていたところでこの定食とカレーで、一人分とカウントしてしまえ、みたいな、都合のいいところで、これで今週の3日間はちょうど目標値くらい、ということに落ち着いた。まだ目標達成の可能性がある! 必達! という、毎回、「ウケる」、と思う。ここのところ山口くんとウケ合っている。この無力感こそが店の商売の本質のような気がしてそれをともに笑えるのは気持ちがいい。
遅くなり、帰った、遊ちゃんはむにゃむにゃと眠っていてそれから笑った。僕も笑った。開店前におこなったメニュー差し替えでお役御免となったメーカーズマークを持って帰り、飲みながら、『酔っぱらいの歴史』や『掃除婦のための手引き書』を、読んで、遅くなって、寝た。
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##この週に読んだり買ったりした本
マーク・フォーサイズ『酔っぱらいの歴史』(篠儀直子訳、青土社)
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ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』(岸本佐知子訳、講談社)
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長田杏奈『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)
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『広告 Vol.413 特集:価値』(博報堂)
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ティム・インゴルド『ライフ・オブ・ラインズ 線の生態人類学』(筧菜奈子・島村幸忠・宇佐美達朗訳、フィルムアート社)
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印度カリー子『ひとりぶんのスパイスカレー』(山と渓谷社)
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綿野恵太『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(平凡社)
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