今日の一冊

トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』(佐藤良明訳、新潮社)

ピンチョンってまだ生きてるんですね。不思議ですね。地球上にいるんだな、という。そりゃいるか。今八十二歳だそうです。
今日も暇だなぁと思いながらビニール傘を差してあてもなく近所をうろうろして、ラジオを聴いて、ごはんを食べて、毎晩縁側にやってくる野良猫と見つめ合って、たまに大学行って、ぼーっとして、朝が来て、寝る。みたいな繰り返しの中で、本屋さんでめちゃめちゃカッコイイ本を見つけました。それは新刊コーナーに面出しされていた『重力の虹』でした。二〇一四年の秋らしいです。今新潮社のホームページを見ました。二〇一四年だったのかあれは。
本屋さんに行くたびに「この本カッコイイな〜、何書いてあるんだろ」とか思いながら、結局いつもその本は買わずに帰っていました。あらすじを読み、レビューを読み、入念な下調べをして、そして遂に、買いませんでした。すご〜く難しくて、四百人ぐらい人間が出てくるらしい、という前情報に食い止められました。しかし毎日のように本屋に行き、持ってみたり、捲ってみたり、撫でてみたり、凄い遠くから眺めてみたり。もう買えよ、馬鹿かよ、怖いよ、と思って、買いました。
読んでみたらやっぱり本当に全然わかんないんですね。付箋を貼ったり名前を書き出してみたり歴史のことや科学のことを調べても、なんか多分こういうことじゃないんだろうな、となって、ストーリーを追いかける読み方をやめてもっとテキトーに読んでみました。それでもやっぱり全然苦しくて、でも嫌いじゃない苦しさで、それが猛烈に輝いていて美しいことだけはわかるよ、という、ずっと何言ってるのかわかんないけど君のその熱意というか気合いみたいなものは凄いね、という友達のことを思い出しました。自分なりに真剣に向き合っても結局何言ってるのかわかんないんですけど彼の言うことは。
『競売ナンバー49の叫び』に、バスルームの中でスプレー缶が飛び回る描写があります。格好良くて格好良くて、読みながら「っし」とガッツポーズを取ってしまいました。格好良いものが格好良いまま居てくれると安心します。嬉しいです。
ずっとなんて言ってるのかわかんないけど俺からわかってもらおうとなんかしなくていいよ。なんでもいいんだけど。こっちはずっとわかろうとするでしょう多分。わかんなくてイラつくこともあるし、わかろうとしない態度を取ることもあるかもしれない。でもそうして結局会えなくなってもそれはそれで仕方のないことだと思う。きっと寂しいんだろうけど。山口でした。

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