読書日記(142)

2019.06.30
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##6月22日(土)  今だってぜんぜん切実だ。
朝、八百屋、腰の曲がったおばあちゃんがめちゃくちゃ大量に果物を買っていて持って帰れるのか心配になった。グレープフルーツをいくつかとすももみたいなやつを1パック、それからなんだったかもう一種類、と思っていたら両手で抱えるようなスイカを半分、買っていて、どうやって持って帰るのだろうと思った。
店、今日は仕込みががっつりとあって昨日三宅唱のツイートで知ったGEZANの『Silence Will Speak』を大音量で聞きながら、聞いていたら、今だって全然切実だ、と思った。
ご予約がここのところにしては多くあったので今日は忙しくなってくれるかなと思っていたら誰も来なかった。昨日の伝票を入力し、今月ってどうなってるんだろう、と、今月初めて今月の数字を見に行った、そうしたら思った以上にひどい数字で日々マイナスを垂れ流していた、度し難いレベルでひどい数字で、体感としては知っていたがいざ数字を突きつけられると「マジかよ」という気にはなった。
そのあと、ツイッターを開いたら最低賃金の話題が見えて、町山智浩の「そもそもアベノミクスは企業にお金を入れることで、賃金を上げて景気が良くなることを目指してたんだけど。それが全然賃金が上がらないから問題なんだけど。賃上げに反対してる人たち、経営者じゃないのになぜ? 自分の給料が安くてなんかいいことあるの?」というツイートについたリプライに「ここで絡んでいるのは中小零細個人事業主でしょうね(数は多いですよ)。彼らは消費税納税者であり、また雇用主でもあります。彼らにとっては経済循環云々よりも自分の目先の損得でしか見られ無いのです。中小零細企業、商店がどんどん潰れているのは賃金が上がらないから、とは想像できない人達。」というものがあり、それでハッとしたというか、僕は中小零細個人事業主であり消費税納税者であり雇用主でもあってまた、経済循環云々よりも自分の目先の損得でしか見られ無いし商店がどんどん潰れているのは賃金が上がらないから、とは想像できない人だった。ヤバ、と思って、最低賃金を上げるみたいな話題が出ると僕は「やめて〜」というふうにしか思わないわけだけど、そういうニュースに対してこういう反応をする人というのは雇用側の人だけで、被雇用側の人はまったく歓迎する話なんだよな、ということを、今まで一度も考えてみたことがなかった。僕なりにスタッフにどうしたらもっとお金を払えるかなみたいなことを思ったり、時給を上げることを考えたりというか実行したりはしていたけれど、時給で労働する人たちにとって最低賃金アップというのはいいニュース以外なにものでもない、ということを一度も考えてみたことがなかった。そのことに愕然とした。こういうのが進めば、最低賃金アップはしませんみたいな政党に投票したり、するようになっていくのだろうな、と思うとゾッとした。断絶について思った。
それからぽやぽやと、ほんの数十分前に突きつけられた今月の絶不調のことはすっかり頭から離れて、時給1300円とか払えたりってしないのかな、みたいなことを、ぼんやりと、いたずらに、考えながら、1時を過ぎて少しずつお客さんが入って、働いていた。あまりにも零細個人事業だった。いや、それは思考停止だ、方法はあるんじゃないか。ぼんやり考えていてもまったくわからないけれども、と、考えながら、働いていた、そうしたら、1時まで誰も来なかったから今日もひどい日になるのだろうと思っていたところまったく忙しい日になってバキバキに働き続けた。 『&Premium』効果だったりするのだろうか、と思ったら少しさみしい気持ちになった。そう言ったら遊ちゃんが『&Premium』は中の小冊子みたいなところに掲載されているということを教えてくれて、それだったらそんなそもそも効果もないだろう、どれだったら効果があるのかわからないが、表紙とかだろうか、表紙と開いてすぐとか、だから、小さな効果だから、これは地力ということにすることにした。
爽やかに嬉々としながら猛烈に働き続け、疲れ果て、店じまいし、椅子から動けなくなり、ビールを飲み、飯を食った。帰ってストレッチをすることを楽しみに感じている自分がいておかしなものだった。それでその通り遊ちゃんに教わりながら楽しくしっかりとストレッチをおこない、「その理論は第一に、日々の実践的な生活が、いわゆる心的表象あるいは認知の「高次な」活動が着実に前提づけられるために必要不可欠の基礎であることを説得的に示すことで、人類学的な分析における存在論的な優先権を逆転させる」という一文が、帰宅後のことだ、読み始めてすぐのところにあった一文が、まったく頭に入ってこず、何度も読み返して、それから進んだ。こういうことを踏まえつつこれからこういうことを書いていきますよ、という案内があったあと、「狩猟者と彼らが殺そうとする動物との関係の民族誌を、とりわけ動物の再生に関する見解に焦点を当てて検討する。私は、輪廻に関する狩猟者の信念と、運搬され食べることができるよりも多くの動物が殺される、一見「侵略的な」生業実践につながりがあるかどうかを問う。」という第2章が始まった。ユカギール。土地の名——土地。
コリマ川上流域のユカギールが住む亜極北環境は、一般にはタイガとして知られるほぼ無人の広大なカラマツ林の一部となっている。その気候は、大陸性の厳しいものである。長く、凍てつく雲のない冬と永久凍土がともない、冬には気温が摂氏マイナス六十三度まで下がることがある。冬は、十月前半の初降雪に始まり、五月後半まで続く。実際のところ、一年間のうち無霜日は七十〜八十日間しかない(Ivanov 1999: 153)。真冬は暗闇に支配されている。十二月後半には、太陽が地平線より上に上がっているのは一時間だけしかないが、たそがれ時は日のあたる時間を六〜七時間ほど長引かせる。寒さと暗闇にもかかわらず、人々は年中、狩猟と氷下猟を続ける。春は、太陽が日ごとに八〜十分ずつ地平線より上に長く留まるようになるにつれて、日照周期と気温に極めて急速な変化をもたらす。四月中頃まで、太陽は地平線より下に下がらなくなり、完全な闇夜になることはない。夏の気温は摂氏四十三度にも達することがある。 レーン・ウィラースレフ『ソウル・ハンターズ シベリア・ユカギールのアニミズムの人類学』(奥野克巳・近藤祉秋・古川不可知訳、亜紀書房)p.56
無人の広大なカラマツ林。雲のない冬。日照一時間。暗闇の中で狩猟。闇夜にならない夏。知らない世界だと思って、すごい、と思った。3時過ぎ、寝た。
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##この週に読んだり買ったりした本
『Number 980号「ホームランが止まらない。」The BIG FLY SENSATION 』(文藝春秋)https://amzn.to/2KjHaDA
レオナルド・パドゥーラ『犬を愛した男』(寺尾隆吉訳、水声社)https://amzn.to/2WZTGye
レーン・ウィラースレフ『ソウル・ハンターズ シベリア・ユカギールのアニミズムの人類学』(奥野克巳・近藤祉秋・古川不可知訳、亜紀書房)https://amzn.to/2WGzvRz
花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)https://amzn.to/2J2aOtY
オカヤイヅミ『ものするひと 3』(KADOKAWA)https://amzn.to/2IUOouD