今日の一冊

2019.06.30
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####アルベール・カミュ『異邦人』(窪田啓作訳、新潮社)
2017年6月30日
昨日坂口恭平の『しみ』が届いたし今朝はコンビニで『Number 930号 清原和博「告白」』を買いもしたが、まずは『異邦人』だった。昨夜ムルソーが人を殺して、それで留置所で暮らしだした。
私が弁護士を選んだかときいた。私が選ばなかったことを認め、一人つけることが絶対必要なのかと質問すると、彼は「なぜか」といった。私の事件は大へん簡単だと思うと答えると、彼は笑いながら、「それも一つの考え方だが、しかし、法の定めというものがある。もしあなたが弁護士を選ばなければ、われわれは職権をもってそれを選任しなければならない」といった。私は、裁判上そんな細かい点まで規定のあるのは、まことに便利だと思い、判事にそういうと、彼も私に同意し、法律というのはよくできている、と結論した。
アルベール・カミュ『異邦人』(新潮社)p.66
この部分を読む少し前にツイッターを見ていたら痴漢の疑いで任意の事情聴取を受けた男性が任意の事情聴取を受けているはずが相手の警官がでは現行犯逮捕になりますみたいなことを言い出して、つまり電車内の女性によって逮捕されていたということになったみたいな、なんかそんなことを言って、任意の事情聴取だから来たのに話が違ううえに私人による逮捕とか刑事訴訟法的におかしいでしょうみたいなことを言うと関西弁の警官が刑事訴訟法なんてどうでもええ、と繰り返し言う、悪夢みたいな動画を見た。
なんだか、言葉が本当に通じない社会というか何かになってきているのだろうかと思うと結構なところ暗澹とした心地になって、前からずっとそうだったのかもしれないけれど暮らしてきた僕の実感としては今が一番この社会を悪夢みたいに感じている。痴漢に限った話ではなく、なんだか「間違えられてはならない」という心地になって、それからボラーニョが描いたようなピノチェトのときのなんかめっちゃ軍事独裁みたいなほんと話にならない感じの、目をつけられたらもうアウト的な、そんなものはこれまでにたくさん読んできた、そういうちょっとほんと話にならない感じの怖さを感じた。そのいくらかのちにカミュのこのくだりを読んで、なんだか話のわかりそうな判事さんでよかったなあ、と思ったが、そのあと十字架を出して「君はこれを見てもなんとも思わないのか!」と絶叫していた。不気味なものの肌に触れる。
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