2016年によかった本ベスト10

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あ○○○○お○○○う○○い○○、○○○○う○○○○○お○○いい○○○。
というわけで掲題の通り2016年の読んだ本のベスト10みたいなやつやりたいと思います。
(なお過去のはこちら。2015年2014年
去年読んだ本の数は88冊だったそうで、あ、なんか前の年とかより減ったな、と思ったのだけどすごい減ったというわけでもなかった。
小説が46冊(日本のが13冊、海外のが33冊)、ノンフィクションが12冊、エッセイその他が30冊、とのことでした。エッセイその他ってずいぶん雑なあれですが。
そのうち再読のものは14冊で、ドストエフスキー4(上下+上下)、保坂和志4、フォークナー2、漱石2、と、保坂和志は4ついってるけど、「あの人のもっかい読みたいな」ってなるとわりと2冊読んで満足する、みたいになっている模様。ちなみに14の残り2冊はアレハンドロ・サンブラとゼーバルト。
で、ベストな10冊は以下。(読んだ順)
1. 平出隆『ウィリアム・ブレイクのバット(幻戯書房)
2. 柴崎友香『パノララ(講談社)
3. トラヴィス・ソーチック『ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法(桑田健訳、角川書店)
4. 保坂和志『プレーンソング(中央公論社)
5. ダン・バーバー『食の未来のためのフィールドノート: 「第三の皿」をめざして(小坂恵理訳、NTT出版)
6. 仲谷正史、筧康明、三原聡一郎、南澤孝太『触楽入門 ——はじめて世界に触れるときのように(朝日出版社)
7. アリエル・ドルフマン『南に向かい、北を求めて ——チリ・クーデタを死にそこなった作家の物語(飯島みどり訳、岩波書店)
8. 夏目漱石『それから(新潮社)
9. 岸政彦、雨宮まみ『愛と欲望の雑談(コーヒーと一冊)(ミシマ社)
10. アン・ウォームズリー『プリズン・ブック・クラブ ——コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年(向井和美訳、紀伊國屋書店)
11. アンソニー・ドーア『すべての見えない光(藤井光訳、新潮社)
12. スティーヴン・ウィット『誰が音楽をタダにした? ——巨大産業をぶっ潰した男たち(関美和訳、早川書房)
13. ジョン・ファンテ『満ちみてる生(栗原俊秀訳、未知谷)
14. 最果タヒ『きみの言い訳は最高の芸術(河出書房新社)
15. アーネスト・ヘミングウェイ『移動祝祭日(福田陸太郎訳、土曜社)
16. アーネスト・ヘミングウェイ『武器よさらば(高見浩訳、新潮社)
17. 植本一子『かなわない(タバブックス)
17冊になっちゃったベスト10。まいいや。下記、それぞれの簡単な感想みたいなものです。
ウィリアム・ブレイクのバット』。エッセイ集。野球のこととか切手の話とか運転免許取ったこととかが書かれているやつ。飲んでいるときになんでだか友だちに手渡されて、「これってくれたのかな?なんなのかな?」と思いながら持って帰ったそれはなんだかとても宇宙みたいないい夜だった。で読んでみるととっても面白かった。平出隆って全然知らなかったのだけど有名な詩人の人とのこと。あんまりよかったのでそのあと『ベースボールの詩学』とか『白球礼賛』とかも読んだ。とってもよかった。
パノララ』。小説。なんとなくタイミングを逸し続けていたのだけどやっと読んだらとってもよかった。あたらしいの読むたびにマジでこれ以上どこいけるのなんか境地みたいなやつ、とか思って次に出るたびにうわマジでなんかそれ以上どっかいったよ境地みたいなやつ、ってなるのだけど、今回もなって、マジかよなんかほんと深化し続ける感すごすぎ度肝バチ抜かれるわとか思いながら読んでいてもー最後の方とかドッキドキしながら読んだすげーすげー。とってもよかった。
ビッグデータ・ベースボール』。野球ノンフィクション。とっても面白かった。もっと淡々とした感じかと思ったらマジエモの筆致で、人間がしっかりと描かれるというか選手たちや関係者たちの息遣いが伝わってくるようなマジエモの筆致で、これはもしかしたら野球好きでなくてもなんかプロジェクトがXしていくようなものでアツくなる人には誰にでも面白いかもしれないあれだった。なんでだか渋谷の神山町のベローチェで、リアーナの新譜を聞きながら読んでいるのがセットになって記憶されている。泣いた。とってもよかった。
プレーンソング』。小説。3度目とかな再読なんですけど久しぶりに読んだらまあやっぱり超よかって春頃そっから草の上の朝食カンバセイション・ピース季節の記憶と再読を続けていったのだけど新作の『地鳴き、小鳥みたいな』もバキバキに面白かったのだけど闘いながら読むような闘うのが楽しいという楽しさで、春のなんかいい風が吹き抜けていってマジで俺はきもちいいし体ごと全部うれしいってなるのはこっちなんだなー俺はという再読したそれら。の中でも特に。
食の未来のためのフィールドノート』。食ノンフィクション。去年読んだ『人間は料理する』も超おもしろ食ノンフィクションだったけどこれもそうとうおもしろ食ノンフィクションだった。おっもしれーーーと思いながら読んでいた。高級レストランでミシュランな俺知らんの世界だけど一皿一皿になんか賭しながら追求する人たちマジおもしろと思った。
触楽入門』。なんか触覚に関する本。触覚おもしろーーーーと思いながら読んだ。マジ拡張だわ人間というか身体というかみたいな感じだった。どこまでが俺の体なんだろうってなったそれはどこまでも広がった。体マジおもしろと思った。
南に向かい、北を求めて 』。自伝かなにか。なんか本屋で見かけて「5000円?チリクーデター?これ俺買わなかったら誰買うの?そして俺今読まなかったらいつ読むの?」とか妙なあれに突き動かされて読んだらなんかおもしろーーーと思って読んだ。アジェンデ政権でわりと高官な感じのポジションだった作家の幼少のころからクーデター起こって亡命するまでくらいの自伝的な何かなのだけど、表紙と裏表紙の写真見比べるだけでもチリーーーーというのあるし総じてチリーーーみたいなのはもとよりで、この作家の英語とスペイン語のあいだで揺れ動くアイデンティティみたいなのが言葉好きの僕にとってはなんだかすごくキュンキュンだった。なんかちょっとしんどいかなーという先入観から入ったのもあって妙にものすごい面白かった。
それから』。これはもーなんかもーおっもしろーーー言葉も書かれていることも全部バチかっこいいーーー100年の時をまたいであたらしい見たことのない踊り方で言葉がのたうち回るーーーとなって興奮したためブログしたためた。→
愛と欲望の雑談』。雑談。岸政彦が大好き大好きなので読んだら雨宮まみも超読みたくなって、それから二冊読んだ。二人ともなんかほんと超誠実だなと思ってマジ救われるなと思った。こういう人がいてくれて、そしてこういう態度を見せてくれて、うれしい、ありがたい、この人たちの言葉にもっともっと触れたい、と思った。思っていたところだった。だからとても悲しかった。
プリズン・ブック・クラブ』。読書会ノンフィクション。おもしれかったーーー僕は通常の読書会みたいなものについて抵抗感があるのだけど、だからうちは会話のない読書会ねっていうのでやっているわけだけど、ここで描かれる読書会はなんで嫌じゃなかったというか気持ちいいんだろうと考えたら参加しているプリズナーの人たちが読む本をガチで人生に引き寄せて読んで語っているからというか本を介してほとんど生きることを語っているような格好になるからなのかもしれないなと思った。つって、そういう読み方だけが意味のある読み方だみたいなことは1ミリも思わないし、「いや読書会ってわりと普通にそういうもんだよ」という話であれば見知らぬ人たちとそんなあけっぴろげに人生とか語らいたくないわと思うのでこうやって見ているのでお腹いっぱいだし、そうでないなんか知識の披瀝のし合いとか博識な人が作品の背景とか解釈とかを開陳してみんなで「ほー」とか言うようなものならやっぱりどうでもいいし、まいいやなんでもいいや、やめたやめた意味もなく敵作りそう。ともかく面白かったです。これ読んで読書日記始めようと思ったのでありがた一冊でもあり。
すべての見えない光』。フランスとかドイツとか舞台の第二次世界大戦ものの小説。上記の読書会の栄えあるかわからないけど第一回で読んだ本。盲目の少女が主人公の一人で、その少女パートのところは視覚情報のない世界が描かれているわけなんですけど小説の叙述において視覚情報というめちゃくちゃ大きいとばかり思っていた情報を欠かせてみると、一つ制限を加えてみると、世界はこんなに豊かに描かれるのか、と超びっくりした。それは見たことのない豊かさでべらぼうに美しかったな。
誰が音楽をタダにした?』。音楽ノンフィクション。mp3が普及というか覇権取るのに向けて開発者たちが挫折を味わったりしつつ超がんばったのとネットに新譜をリークするイリーガルな集団が超がんばったのと音楽産業のトップの人たちがなんかがんばるかことを仕損じるかしたのが書かれていて、なんかこう熱狂。そっかマジカルチャーだったんだなリークのやつってっていうカルチャーというかムーブメントというか超熱狂。なんというかこれはこの本の順番どおりに映画化したらそれでもう超面白いねっていう感じのこの先が気になるーーーの構成で実際映画化されるんですけど「映画業界のどんなアホでも読んだら画面超イメージしやすい作りにして超売り込もう」というエージェントの提案に則って書かれましたっていう感じの息の詰まるハラハラ映画を見ているのと同じような面白さで超面白かった。
満ちみてる生』。イタリア系アメリカ人一家な小説。これはもーーー、ほんとよかったね。超笑った&頑固お父さん最高最高にチャーミングでさいこー&なみだなみだーーーウディ・アレンが好きなのと少し似た感じで好きーーーーで、なんかこれはわりと誰にでも「これ、すっごくいいよ」って言いたいなって思う一冊だった。
きみの言い訳は最高の芸術』。エッセイ集。折りすぎてなんの目印にもならないくらい折りすぎて最高最高によかった。共感とかもいろいろあったりするんだろうけどこういうのってなにが面白いんだろうな、これまで言葉にしたことのなかった感覚が名指されて「あっ!」てなるのがいいってことなのかな。「それだそれだー!」みたいな。とにかく最初から最後まで「あーーーーこれはーーーいいぞーーーー」と思いながら読んでいた。
移動祝祭日』。1920年代のパリ暮らしの時代を回顧したエッセイ。ヘミングウェイは大昔に老人と海人を読んだことあるだけだったのだけどこれはプリゾンボッククルブで触れられててちょっと読みたいリストに入っていた本で本屋で新しいラブ装丁で出ていたので「お」と思って買って朝少しずつ読んだのだけどそうしたら毎朝がね、5分くらいヘミングウェイの文章に触れていると、すーっと、静かな、いい、おだやかな心地になる。あーこれはマジでーーーしみこむーーーとなった。しずかで朴訥として確かな文章マジでよかった。
武器よさらば』。第一次大戦もののイタリアが主な舞台の小説。上のやつがマジでよかったので長編小説にゴーしたんですがまー、よかった。戦争やっべーーーと思いましたね。死に接した状況で生きるってどういうことなんだろうってそこでなったのかそこから戦争ものの小説を続けて読んでいる。でこちらは戦争やっべーーーだし、戦争だけじゃないんだよなーメロドラマとか釣りとか競馬とか活劇(川をボートでめっちゃ漕ぐ!)とか出産とか、総合だなーマジどれも超充実。この総合っぷりは最高だった。超よかった。
かなわない』。日記。ずっと読みたかったんだけどなんか「凄い」と聞いていてずっと怯んでいてずっと買わないでいたのだけど来年新しいの出るっていうのを見かけてそろそろゴーしとくかなってなって読んだのだけどヘミングウェイを総合な感じな小説と書いたけれども言ってみたらこれもそれなんだよなーという。読書日記の12あたりで超言及したのだけどそれぞれが完全に独立して充実しているというか他に奉仕しないんだよなそれは日記だからそりゃそうなのかもしれないけど。このそれぞれのトピックが他に奉仕しないで自立&屹立というのはとても読んでいて凄くて、いやそうなんだよな日記だから。今日は明日への布石でも伏線でもなくてただ今日なんだからそりゃそうなんだよな。だからなんかこう今日っていうのはすごいもんなんだよな。よくわからず興奮してきたけどとにかく充実した刺激的な日記ってマジで充実した刺激的な文学かなにかの形式なんだなというのをよくよく知りましたな一冊というかこれはほんと凄かったな。
以上でしたー。こうやって振り返って改めてベスト10見てみて思うのは、自分の好みから自然に派生していって手を伸ばすものも本の中で言及されていてそこから行くものも一つのツイートでふと読みたくなって読んだ本も店頭で知って取った本もちろんあるのだけど、それとは別に人とのコミュニケーションの中から唐突に自分の前に出現した本も多いんだよなということで、一冊目の平出隆なんかは「突然手渡された本」なんで露骨にそうなんだけど、食の未来と誰が音楽をタダにしたと触楽入門は人に直接「これいいよ」と言われて読んだ本だし、保坂和志と漱石の再読は会話の中で出てきてそんな気分になって手に取った作家だし(同じ時期に二人の友だちが『それから』を読んでいた)、最果タヒも友だちがなんかで書いているのを見て気になっていたからこそ読んだ本だし、ジョン・ファンテも以前人から教わって知った作家だった。つまり、人との関わりは大事だねみたいな、クソみたいな結論になるのかこれは、という危惧を今わたしは持っているところなんですけど、でもそれはやっぱりわりと大事なことなんだろうなー、人を介することで自分の中になかった興味が芽生え広がるのはとてもいい&豊か。そういうわけなので2017年もとてもいい読書を続けたい所存。