長谷川晶一『夏を赦す』(廣済堂出版)

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5月9日(土)
帰り、鶏肉と玉ねぎと青梗菜を煮てかけうどん。
今日は無飲酒。『夏を赦す』を読んだ。この話で一冊にできるほど引っ張られるものなんだろうか、と思っていたら岩本勉の高校のときのチームメイト20人に話を聞いて回るということが始まって、後輩の不祥事によって高校最後の夏の大会出場を奪われた野球部員たち、それから20年のそれぞれの人生を生きてきた40になる男たちの物語になっていった。吉田という人物と見晴らしのいい感じのイタリアンレストランみたいなところで話をして、吉田の目の前のジェラートは溶けていく、というのを見ていたらアイスを食べたくなったが吉田は話を続けた。
「現在の日本に流通している卵は、本当にいいものばかりだよ。昔、サルモネラ菌が問題になったときに、そこから賞味期限がつきだしたのね。それまでは卵って農作物やったから、賞味期限ってなかったんですよ」
これもまた初めて聞く話だった。思わず僕の声も大きくなる。
「卵って農作物扱いになるんですか?」
「そうそう。でも、日付がついた時点で食品扱いになる。だから、その頃から、'サルモネラの食中毒をなくすために温度管理をしましょう'ってなって、温度管理はこうしよう、賞味期限はこうしようとルールが厳格になっていったんやね」
岩本の高校時代、事件当日の八九年の七月七日、事件を起こしたK……。
今回の取材のきっかけとなった出来事とはまったく関係のない話ばかりが続いていたけれど、僕は吉田の話すエピソードに知らず知らずのうちに引き込まれていた。水力発電のジョイント掃除も、かつては卵が農作物だったことも何も知らなかった。 長谷川晶一『夏を赦す』(廣済堂出版)p.145,146
ここを読んで、この関係のない話が律儀に収録されているということにずいぶん笑って、それからアイスを買ってきてシャワーを浴びて、そのあいだに少し柔らかくなれよ、というところだったが、置きすぎて、けっこう柔らかくなりすぎて、少し食べて冷凍庫に入れた、どうか固くなってくれ——。
読み進めていると、さっき笑ったところが笑いではなくなっていく感触があって、これは岩本勉の話であると同時に、あるいはもしかしたらそれ以上に、その周囲にいた人たちの人生の物語になっていて、いろいろな仕事についているかつての野球部員たちの物語が語られていく。庭師、大工、消防隊員、保険代理店。それぞれにそれぞれのその先の暮らしがあって今もたしかに生きていて、それが律儀に書き留められているのはドラフトに掛かって華々しい道を歩んだ男だけを主役にしないためというか、人生の価値みたいなものは華々しさとは関係がなくそれぞれに価値があるというか、彼らを添え物にしない意思というか、あるいは気遣いの人である岩本への贈り物としての一冊みたいなこともあるのかもしれない、とにかく岩本勉を突出させない、拮抗させること、それがこの本の倫理のように感じて、それはとてもいいものだった。
あと少しで読み終わりそう、というところまで進んで本を閉じた。
予約は結局14時からの初台おひとりで、そうか、と思って明日のシフト予定者である山口くんと西野くんに送って、いくつか予約の枠を消して、予約制というのはどれだけ機能するものなんだろうか。
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