又吉直樹『人間』(毎日新聞出版)

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5月6日(水)
夕飯の準備を始めて、じゃがいものカレーきんぴらみたいなものをこしらえてあとは冷凍していた餃子と人参のおかずと大根の漬物だった、ビールを飲んで、できて、食べて、まだ7時過ぎだった、今夜はもう何もない。読むぞ、と思って又吉直樹の『人間』を読み始めた。なんだかすごくて、ずっと読んでいた。又吉直樹が怒っている、と思いながら読んでいた。
普通の感覚だからこそ書けることがあるとナカノタイチが書いていた、普通の感覚というのがこれだろ? あらゆることを簡略化して、知っている箱に分類する。「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」に該当しない内容不明瞭のものは、「異端性廃棄物」とでもして、「さぁ、みんなでコイツに石でも投げつけてやりましょう!」と呼び掛けて、銭を稼いでるんだろ。(…)自分の住みよい社会にとって邪魔なものや不安にさせるものは理解できないものとして処罰するんだろ。そりゃ、抗うよな。 又吉直樹『人間』(毎日新聞出版)p.174
めちゃくちゃ怒っている、と思いながらずっと読んでいた。記憶の書き換えというのか忘却というのが加速していく様子がおそろしく、そして人間が次から次へと溶けていく様子がやばかった。知らない感触だった。
飛び石を踏んでいくように記憶が飛ぶ。抜け落ちた時間がゆっくりと追いかけてくる感覚があった。下北沢のバーの階段をおりて、めぐみと並んで歩く。かつて小田急線の線路があった場所は柵で囲われ、そのなかに大型の重機が何台か静かに停まっている。
「ここ、なんかできるんかな?」 同前 p.214
ふいに小説の時空間と現在が接続されてギョッとなった、そこはおそらく「空き地」という名前になったあのあたりだろう、その延長線上にボーナストラックがあって毎日僕がいる。
4時間とか5時間とかずっと読んでいた。こんなに本を読んだ日はいったいいつ以来だろうか。眠るのが惜しい気がしながらもどこかでおしまいにして寝た。
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