アレホ・カルペンティエール『時との戦い』(鼓直、寺尾隆吉訳、水声社)

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4月12日(日)
下北沢店は「いつのまにか」できあがったものではないし、休業は「すぐに」されたのではなくてまったく簡単ではない判断をしまくった末にやっとされたものだ。悔しさ紛れになのか、Spotifyでつくっていたプレイリスト「music for reading by fuzkue」をツイッターで公開した。フヅクエのなにかよ、世界へ、広がれ、みたいなところで。じわじわといいねされていくのを見つつ、プレイリストに曲を足していった。僕はLe Bergerがずいぶん好きらしい。あの揺らぎ。それがひたすら心地いい。聞きながら、『時との戦い』を開いた。
「おい爺さん、なにか用かい?」
足場の高いところから何度も同じ声が降ってくるが、老人は答えない。 アレホ・カルペンティエール『時との戦い』(鼓直、寺尾隆吉訳、水声社)p.13
おい爺さん、なにか用かい? 足場の高いところから何度も同じ声が降ってくるが、老人は答えない。小説はすごい。たったこれだけの言葉で、空間が、時間が、確かに立ち上がる。声があって、声の先があって、つまり人が複数あって、つまりここに空間ができて、高低差があって、つまりここで空間が伸びて広がって、そして声の先は老人だ、属性が与えられ、いやすでに声の主にも属性は与えられている、彼は足場の上に立っている。「ぶらぶらしながらそこらをのぞいては、わけの分からぬことをぶつぶつ呟いているだけだ」と続いた。小説はすごい。
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