読書日記(137)

2019.05.26
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メールマガジン「読書日記/フヅクエラジオ」 | fuzkue
##5月18日(土)  曜日がわからなかった。週末が昨日で終わったんだっけ、だから月曜だっけ、というような。遊ちゃんはココアとはちみつと酒粕でなにかをしたらおいしいと見てそれをやってみたら酒粕でほろ酔いになってしまった、と言っていて焼いていた。その焼く前のものがどういう状態のものでどんな食べ物なのかが想像がよくつかなかった。
店、行き、ツイッターを開いたら昨日の夜にそこで終えたツイートがあって「さっきから一生これみてる」という文面とともにTik Tokで「杭城街拍」というアカウント名だろうか、のやつで、白と黒の美少女二人が歩いていて白はショートカットで笑顔で黒が肩までの髪の長さでクールな構えで、歩いていて、その動画がちょっとびっくりするほど完璧だと思って僕もこれさっきから一生見られると思って見ていた、7秒の動画で、たくさんの情報が完璧に組み合わさっているように感じた。アイドルかなにかなんだろうか、二人で歩く、黒が白の顔を見つめながら話す、白が外に気を取られてなにか人があったのか笑顔で手を振ろうとするその刹那というかその瞬間に黒の手が白の後頭部を包んでそっとしかし確かに自分側に向き直るようにいざなって、そのタイミングでいくらかのスローモーションに動画はなって、黒はそのとき視線は白ではなくうつむいていて睫毛が黒くて、唇が赤くて冷たく結ばれていて、そして白の顔が向き直って向き直りながら頭部に置かれた手はなめらかにうなじに回り再生速度は通常に戻されて残り1秒、手がもう少し下りて細い指が喉のほうまで到達するようだ、動画の最後の最後にクールな黒の赤い唇がかすかに上がるというかかすかにほんのかすかに微笑みがそこに生じるような気配があってほとんど未然で、そして動画は始まりに戻る。なんだか、すごい、と思ってそしてそのツイートの「さっきから一生これみてる」というのも一生見ていられるようないい一文だった。
今日はご予約が全然入っていなくて昨日の夜、気づいたらご予約がたくさん入っていて満席になるという場面があってiPadに通知が来ていなかった、それでおかしいなと思って見ていたらソフトウェアアップデートを営業中におっぱじめてしまったわけだったのだけど一方で翌日の土曜日はご予約が全然入っていなかった。これはエアリザーブがなにか障害とかでも起きているのだろうかと思い昨日の夜自分のアドレスで予約をしたら無事予約できてだからただご予約が入っていないというだけだった。
それは今日も変わらなくてここのところでは見た覚えがないほどにご予約がない週末で「そうか」と思いながら「でもこういう日に限って」と希望も捨てないで開けたら暇だった。暇で、座っていた、InDesignの作業を進めた、起きているアルファベットのところを「ベタ」という文字スタイルを適用してベタ組みにしていくという、ベタ組みという言葉で合っているだろうか、そういうチマチマとした作業でもう少し探す方法がありそうなものだけどわからないので「数字は除外する」みたいな正規表現をつかってアルファベットのところを検索して目視して必要なところをベタにするというそういうことを繰り返して午後を過ごしていた。休憩しながら山口くんの「誰かの日記」を読もうとメールアプリを開くと今日は山口くんから2通来ていて片方はこれまでの分のPDFファイルということで、そのメールの冒頭が「毎日、夜分遅くに失礼しております。」でとてもそれがよかった。毎日、夜分遅くに失礼しております。いいフレーズ。
それで3時くらいからようやくポツポツという感じで始まってそこからはだいたい一生懸命働いていた。そうしたらわりと悪くない数字に着地してそれを僕はシンプルに喜んだ。なんでだか、もうダメだと思っていたところがあったというかもう今の目標値にはきっと到達しないんだろうな今後は、とどうしてだか思っていたところがあって、ゴールデンウィークは到達していたのに、それが明けてからの低調を見ていてもうそういう数字には行かない、そういう地力はこの店にはないということだ、みたいな悲観というつもりはないがそういうふうに思っていたので、しかし到達はしなかったが、それに近い数字になってシンプルに喜んだ、まだ行けるじゃん、みたいな。これで今日のスタートがよかったら行けていた、というのは無意味な仮定だが。
5時から10時までおられた方が「読書日記」のメルマガで配信しているPDFファイルを印刷したものを、たぶん5時間のあいだそれだけを読んで過ごされていて、最初は「お、読書日記じゃん」と思ってうれしくてそれで飲み物をお持ちしたときに「今週分ってあります? 今週からフォント変えたんですよね、あ、きれいに出てる、きれいに出るもんだなあ」とか言ってうれしく思っていたが目に入るたびに「読書日記」が引き続き読まれていて、だんだん「これはすごいことだな」と思うようになっていったというか、いつも、何を読まれているかはもちろんわからないけれど本を読まれていた方が、今日読むものとして「読書日記」を選択された、というのは、なんというか比肩というか、もちろん、それはこれまでに書籍になったわけだしこれからもなるはずでだからなんらかの点において商業出版に足るなんらかではあると言ってももはやいいというかそう言わないとなんらかの点においてフェアではないというそういうテキスト群ではあるから比肩もなにもないのだけれども、それがいざ自分の目の前というか自分のいる場所で数時間を掛けてまるで読書のように、そうまるで読書のようにというこの感じ、読まれている、と思うと、それはなんだか最初に感じたうれしさとは違うあまり体験したことのない新鮮なうれしさと喜びとなにか、なんだろうか、自信みたいなものを与えてくれるなにかがあった。またそれが『読書の日記』ではなくて僕が書いて推敲して流しただけの生原稿というか、に近いというか、書籍にするにしてもほとんど変更しないから生のままだから、変わらないとはいえ、僕が自分だけがチェックして送りつけている、より生な感じのする文章がまとめて読まれているというのもまた、おかしな新鮮な面白さがあった。何週間分くらいあったのかわからないが今日のその時間はどんな読書の時間だったのだろうか。
そういうことを思いながら落ち着いたらInDesignで自分の日記を、読むとは違うが見る、そういう作業を続けていてこれはけっこう疲れる作業で肩がだんだん重くなっていった。あまり長い時間やっていてはいけない。
閉店して、ご飯を食べたらツイッターを開いたら猫の動画に釘付けになっていた。猫も犬もパンダもみんな本当にかわいい。それで立ち上がって、疲れた日というのはそういう日に限ってどうしてそうなるのか、それはエンジンが掛かっていたということで説明が付くことだろうけれどもシンクをとてもきれいにする掃除をした。
ゴダールの新作が4月20日公開で上映されている、ということをここまで知らずに来たということに愕然とした。
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##この週に読んだり買ったりした本
吉田健一『瓦礫の中』(中央公論社)https://amzn.to/2Ha9LIL
マルセル・プルースト『失われた時を求めて〈5 第3篇〉ゲルマントのほう 2』(井上究一郎訳、筑摩書房)https://amzn.to/2v1ZyY0
『ユリイカ2006年10月号 特集=吉田健一 「常識」のダンディズム』(青土社)https://amzn.to/2VXl9A0
メイソン・カリー『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』(金原瑞人・石田文子訳、フィルムアート社)https://amzn.to/2UfAOG5
イ・ラン『悲しくてかっこいい人』(呉永雅訳、リトル・モア)https://amzn.to/2P2wZmA
カール・ホフマン『人喰い』(古屋美登里訳、亜紀書房)https://amzn.to/2Jj8txi