読書日記(125)

2019.03.03
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##2月20日(水)  夜中、僕は全身が汗だくで一度起きて全部着替えた、遊ちゃんは朝は先に出ていった、起き上がるとお腹のあたりがまだ不穏で、その不穏さは「胃?」という疑問を僕に与えた、胃腸の不調みたいなそんな感じがした、何かを飲んでおこうか。
それでスーパーで、定食のことを考えながら、しかしどうやって移行することになるかな、ちょっとやってみないと感覚が想像できないな、とりあえずなんかいろいろを買おうかな、と思ってよくわからない調子で買い物をして、その調子のまま八百屋さんに行ってやはりよくわからない買い物をして、店に行ってコーヒーを淹れた。
外ではスズメが鳴き狂っていて電柱にいる。よじ登るときに手がかりにする「出る杭」みたいなところを上下しながら、あっちに行ったりこっちに行ったりしながら5羽くらいのスズメが鳴き狂っている。見事なものだった。
昨日『明夫と良二』を読み始めるときにカバーのそでというのか、のところの著者紹介のところを見たら1921年生まれで2009年まで生きていた、55年に芥川賞受賞だから34歳のときだった、『夕べの雲』は45歳のときの作品だった、ふむふむと思いながら見ていたら「80歳以降も毎年刊行された一家の年代記的作品は」とあり、つまりこの家族もの的なものがずーっと書かれていったのか、と思うと、楽しみな心地がずっと遠くまでいくようだった。ありがたい。それを思い出しながら日記を書き、準備をした、昨日もそこそこに忙しかったというか、平日としてははっきりと忙しかったようで、今日も身構えるところがあった。それで開けたら誰も来ないから日記を書き続けた。
営業、暇、読書、少し『うしろめたさの人類学』を読み、それから『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』を始める。すると何もしていないのに体中が疲れてきて、もしかしたら働いたらというか動いたら疲れが取れたりしてと思い、おかずをいろいろ作ろうと思い、人参と糸こんにゃくのきんぴらをこしらえ、さつまいものポテサラをつくる。それから紫キャベツを千切りにして塩もみして、思ったよりも量があったので、二つに分ける。黒酢のくるみのマリネと、あたためたマスタードとクミンとガラムマサラとかでスパイス和えみたいなものに。疲れは全然変わらずそりゃそうだよなと笑って、それからベルンハルトに移行。夜、お腹の具合を変に感じる、胃のあたりがモヤっとする、水があるみたいなモヤッとした感じになり、それを感知したらおでこのあたりがボヤッとした、これは風邪かもしれないぞ、と思い、帰ったら熱を測ることを考えたら楽しみな予定ができた。状態の数値化、それは僕の好みだった。外で休憩しながら山口くんの日記を読むと山口慎太朗が登場してそれからタナカイズミが出てきたさらに花ちゃんも出てきて鳥肌が立ってたちまち泣きそうになっていた、そして花ちゃんがステージで、タナカイズミがライブハウスのフロアで、その横には山口慎太朗で、彼らは「デリケート」を歌っていた。ずるい、と思う間もなく涙が出た。
昨日のちょうど半分というまったくの凄惨な日を終え、定食を盛ってみる。長方形のプレートに、おかずを5種類ちょんちょんちょんちょんちょんと盛り、買った椀に味噌汁、そしてご飯、で、新定食、と思うが、どうも見た目に締まりがない。これまではお盆にのせてまとめていたのがお盆から解き放たれると茫洋とした感じになるということだろうか、茫洋は使い方合っていただろうか。そもそも調子に乗って5種類盛ったが5は多すぎやしないか。こんなに作るのか。
帰り、夜は楽しみにしていた庄野潤三。がぶがぶ白湯を飲みながら読む。ひたすらいい。
「ぼく、ほんとに毛虫って恐い」
と明夫はいった。
「でも、このごろ、ひとつだけ恐くないのが出来た」
「なに?」
と細君がいった。
「もくもく毛虫」
みんな、笑った。
「前は恐かったけど。あれだけ、恐くなくなった。あれ、なにか滑稽というか」
確かにそうだ。桜毛虫や松毛虫とは違ったところが、もくもく毛虫にはある。
「あれ」
と明夫がいった。
「よく道を歩いている」
「そうだ」
と良二がいった。
「いつでも道を横切っている。車なんか通る道を」
「どうしてかしら」
と、笑いながら和子がいった。
「それも、急いで通っているの」
「ほんとうにそうね」
と細君がいった。
「ほかの毛虫は」
と明夫はいった。
「そんなところ通らないのに、あのもくもく毛虫だけ通る。だから、よく車に轢かれて、つぶされたのを見るよ」
「うん、よく見る」
と良二がいった。
「どうしてあんなところ、通るんだろう」
みんな、不思議がる。 庄野潤三『明夫と良二』(講談社)p.54〜57
お酒を飲まないせいか眠くならないし眠くなりそうな気配もなく、しかし寝ようと思いいったん電気を消すも眠気訪れず、吉田のけんちゃんの力を借りようとまた電気をつけて『時間』を開く、すると、2ページほどでうとうと、夢を見て、電気再び消す。遊ちゃんは眠れないようだった。眠れるといいなあ、と少し心配に思いながら、僕は簡単に寝る。
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