読書日記(120)

2019.01.27
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##1月16日(水)  今週は休みないんだねえと遊ちゃんが朝に言うからそうで、今週は明日の夜を閉めるけれど一日閉める日はなくて僕で言えば昨日のひきちゃんの時間、今日の山口くんの時間、明日の夜が休みということになる、そういう半休の日に働く時間は9時間ほどである、「半休の日に働く時間は9時間ほどである」。??? なんだこれ。なんでそれにしても今週はそうしたのだろうか、と朝はやはり呪わしい気持ちというか先週とかの自分の判断を呪わしい忌まわしい馬鹿げた思慮の足りないものに思い、なんでだったか思い出そうとしたが思い出せなかった、それから武田さんがシェアしてた『精神看護』っていう雑誌面白そう、中動態とかを出している出版社の、と言いながらくるみをつまみ食べる遊ちゃんをどうしてか真似る遊びをしたら二人でゲラゲラ笑った。
店、今日もEarl Sweatshirtを大きな音で聞きながら仕込み。
開店前、外階段に腰をおろして煙草を吸いながら『cook』を開く、いい、とてもいい、と思っていたら階段の下つまり路地のところに警官が4人くらいいてなにかの業者っぽい人もいる、「ホームレス」「入ったのはそこからですかね」「あいつが喜んじゃう、食事も出るから」、そういう言葉が聞こえる、警官の一人と目が合う。
今日は山口くんが夕方の日で今日はとうとう独り立ちというかもうほぼ独り立ちね、というそういう位置づけの日で僕は今日は夜は友だちと飲みに行く、しかし優しさかただ心配なだけか飲むのは向かいの2階の徳島県の居酒屋にすることにして、だからつまり、緊急時はすぐ出動するよ、酒気帯びだからお客さんと接することはしないけどキッチンの中でだけ手伝うそれは物理的に可能だよ、というそういう飲み方をするそういう日だった、どうなるか。
山口くんが来るまでにいろいろ片付けようとシャキシャキ働く。途中、外階段に腰をおろして煙草を吸いながら『cook』を開いていたらあまりにいい、生物の役割は創造することであります。他のすべてが決定されている世界のなかで、決定されていない地帯が生物を取り巻いております。というベルクソンの言葉が引かれていて、「決定されていない地帯」、と思った。
読書は祈りの行為でほんのわずかな時間のそれが一時間のそれに劣るわけではなくこうやってパッと開いて、開く手が祈りだ、そして落とす目が垂れる頭がそれが祈りだ。パッと開いて、ほんのわずかな時間、本とともにある、それがどれだけ人を救うことか、ということをよくよく知らせる本だと、そう思いながら何度か同じ行為を繰り返す。読んでいると、そうだった、料理も祈りだった、となっていった、おいしくあれというそれは正しく祈りだった、この本のまとう空気の明るさ、と最初思ったがもっと切実だった、切実に明るかった、それもまたつまり祈りだった。読書も料理も祈りで、僕がどん底みたいなところに落ち込まないでいられるのは日々を構成する行為がこういったものだからなのかもしれないとそう思った。
そのあと冷たいドリンクをつくるために氷を触っていると食べ物を扱うということはこの冷たさ、あるいは熱さ、固さ、柔らかさ、そういうものを感触し続けるということでそれは豊かなことであるなあと、いい心地だった。
それから、日記を少し書いていた、「続続続アイオワ日記」の引用のところを写しながらまた涙が湧き上がってそれははっきりと玉になったそういう泣き方をした。店主、営業中、泣く。
昨日今日と、「アイオワ日記」と『cook』で僕はなんだか心地がとてもいい気になっている。ショートブレッドの生地をつくるためにバターを切る。バターは触っていると冷凍してパキパキだったが溶けてヌルヌルする。それに触れる。
いろいろ一段落し、夕方、山口くんが来たらドトールに行ってラジオの収録をしようと思っていた、なんでかそう思っていたらなんでか緊張みたいなものを感じた、僕は緊張しやすいがそれにしてもこれはなんなんだ。面白いことになるかな、みたいな緊張なんだろうか。それで山口くんが来てしばらくして店を出てドトール。コーヒーを少し飲みシナモンロールを貪り食べてそれから喫煙席に侵入して一服して深呼吸したのち、ラジオ。30分のアラームをかけて、イヤホンをしながら、やる、けっきょく楽しくなって、30分のアラームは無視して50分やっていた、50分やっていたら8000字になって多すぎる、こういう週があるのも仕方ないか。
それが終わったのが6時半で、7時まで時間が少しあったから本を開くことにして『Typography』を開く、何人かのデザイナーの方の仕事を紹介しながらこういうフォントが使われていて、こういうふうに組んでいて、ということが書かれていた、使わているのが多かったが僕はイワタ明朝オールドはカタカナがひとまわり小さくなる感じがあまり好みじゃないのかもしれないと思って、カタカナは固有名詞とかで使われがちだけれどもそれが少し小ぶりになると、弱いものではないはずの情報が一段弱くなる感じがするというか、弱くなるから嫌だというのではなくて弱くなることがそぐわないようなそういう感覚になるのかもしれない、副次的な文字に見える、副次的でない内容で。ということだろうか、とはいえ先日ブラインドで「どのフォントかな〜」と見比べたときイワタ明朝オールドは僕はきれいだった。だから僕の見え方なんてまったく当てにはならない。でもリュウミンオールドかなが一番やっぱりきれいだった、フォントはほんといろいろなあ、と思い、ふむふむ、と思っていたら肩がぐっと重くなり、時間にもなったので、出。
戻ると店は残りお二人でお一人の方のお会計を僕は上着を着たままして見送ってそうしたら残っているのは優くんだけになった、それで優くんのお会計を済ませ、つまりお客さんゼロになる、山口くんに、じゃあ僕たちは飲んでくる、そこで、と向かいの建物を指差し、暇すぎるのもあれだけど、ちょうどいいくらいの日だと、いいよね、がんばって! と言って出た。
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