「ヒマコッティだしヤコペッティ」
昨日ビスコッティを焼こうとしているなかで訪れた啓示。ヒマコッティだし…ヤコペッティ…!すばらしくナイスチョイスなフレーズだなと思ったためこれから乱用していきたい所存なのだけど、フヅクエブックスの栄えある006を飾る『巣窟の祭典』はそんな小説。
作者は1973年生まれのフアン・パブロ・ビジャロボスさん。大学ではスペイン文学とマーケティングを専攻。そんなビジャロボスさんのデビュー作を含む2つの中編が収められた作品集です。
扱われている題材はメキシコの麻薬王の暮らしと地方の貧困家庭が舐めるいろいろな辛酸みたいな感じで決して愉快なものではないし、その暮らしの外側には「メキシコ 麻薬戦争」で画像検索したときに出てくるような陰惨なたくさんの死があってその匂いは小説の中にも立ち込めているわけだけど、世界残酷物語というか、でもまあなんか、いいんですよ。実に明るい。カラッとしている。
『ストーナー』と『断片的なものの社会学』で続けてなんかじわーっとわーいいぞーこれはいいなーなんか、という感じが続いたので、軽いものを読みたいぞみたいなところというか、軽いものを紹介したいぞというところで。年末だし。
なんかクソくだらないことばかりの現実でなんかこう深く沈み込むぞーみたいな夜なんていくらもあるわけなんですけど、それに抵抗する有効な手段はクソくだらないことを軽んじることなんじゃないのか、ユーモアの手つきでそれを取り扱うことなんじゃないのかと最近とみに思うんですけど、この小説にはそれがあって。
ゴロゴロ転がる死体とか生活者を追い詰めるハイパーインフレとか、クソくだらなさの極みみたいな現実を、語り手の子供二人は軽くいなすというか、冗談と軽口で丸め込むわけなんですけど、「おー、いいぞいいぞ減らず口」というか。
ラテンアメリカの小説はあれこれ読んできたんですけど、この小説みたいな語り口はあまり出会ったことがなかったので新鮮というか、ウィリアム・サローヤンとかカート・ヴォネガットを思わせるようなというか、
ところでさっき見つけたんですけど。
メキシコの麻薬王がどんな暮らしをしているのか…息子たちがSNSに投稿している写真いろいろ:らばQ
http://labaq.com/archives/51854250.html
実にバカらしくていいですね。
まあなんていうんですかね、クソくだらない現実なんて檻の中の虎にでも食わせておけというか、発情した雌牛の人工授精の際にでも使っておけというか。
あるいは屋上にあがってディストーショナルなギターでも掻き鳴らしておけというか。(なんか突然『はじまりのうた』を思い出した。この小説とはまったく関係ないんですが。また見たいなー)
今回もご購入の方と「それ持ってるよ!」の方に、もはや読書感想文でもなんでもないテキストをお渡ししています。