『若い藝術家の肖像』を読む(38) 地上最後の刑事、Rage, rage against the dying of the light

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「暖炉のまえで、しきものの上にねころんで、頭の下で両手をくみ、こういう文句のことを考えたらすてきだろうな。みぶるいした。ぬるぬるする、つめたいものが、肌にふれたような気持。」(P20)
前回、スティーヴンはリリックを考え始めました、ということが書かれていました、ということが書かれたけれど、リリックと言えば、みたいなところで、最近「へえ、いいもんですね」と思ったことを。
ベン・H・ウィンタース『地上最後の刑事』(めっぽう面白かった)の中の一節。
「「ビラネルは19行からなる詩よ」私の首に顔をうずめたまま、いまも小声で言う。「三行連句と呼ばれる、おなじ脚韻を持つ三行一組の詩が5つ続く。最初の三行連句の第一行と第三行が、あとの三行連句の最後の行でくりかえされる」
「わかった」と言うくせに、まったく頭にはいってこない。彼女の唇が私の首にやさしく触れるたびにぴりぴり走る電流のほうが気になって。
「最後は、押韻を踏む四行連句で締めくくる。後半の三行で、最初の三行連句の第一行と第三行をくりかえすの」
「ふうん」私は言う。「読んでみないとわからないな」」(P216)
ほんと、読んでみないとわからないな、と思った。興味を覚えつつもう少し進めると。
「「ね」彼女が言う。「有名な詩を読んであげる」
「有名な詩なんていらない。きみのが聞きたい」
「ディラン・トマスのよ。たぶん聞いたことあると思う。最近、よく新聞にのってるから」」(P216)
ディラン・トマスとある。ディラン・トマスと言えば『インターステラー』のやつしか知らないくらいに僕はディラン・トマスのことをまったく知らないわけだけど、と思って、「ディラン・トマス ビラネル」とかそこらへんの調子で検索をしたら見つかったわけだけど、まさにあれだったわけだった。
きれいですね〜って思って。超ビラネルしてんなーみたいな、めちゃくちゃビラネってるじゃないですかこれ、というような、そんな感想を覚えたわけなんだけど、いいものですね、詩っていうのも。韻ってきれいですね。
それにしてもなんせ、rage againstっていう言葉はなんか僕はたいへん好きで、憤怒せよ、憤怒せよ、っていいね、って、そのように日々、思ったり思わなかったりもするくらいで。
だから、なんていうか、『地上最後の刑事』という半年後くらいに地球と小惑星がぶつかって終了っていうときを描いた小説のなかで、がんばって仕事を続ける刑事に向かってこの詩がうたわれようとして、そしてうたわれなかったということ。刑事がそれを耳にすることはなかったということ。でもそれは鳴り響いているということ。憤れ、憤れ、死にゆく光に対して。
パレス刑事、2作目『カウントダウン・シティ』におきましてもプレアポカリプスのだらだらにおとなしく流されず、引き続きがんばってください!応援しています!