武田砂鉄さんが選ぶ5冊

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フヅクエ文庫とは

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誰かにとって大切な本が、また別の誰かにとって大切な本になったらいい。さまざまな選者による、忘れがたい一冊を集めた選書シリーズです。寄せられたコメントに導かれて、思いも寄らない本との出会いをお楽しみください。

選者

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武田砂鉄
1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年よりライターに。『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす』で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。他の著書に『日本の気配』『わかりやすさの罪』『偉い人ほどすぐ逃げる』『マチズモを削り取れ』などがある。TBSラジオ『アシタノカレッジ』金曜パーソナリティを務める。

    選書にあたって

    そこら辺にあった本
    本棚がしっちゃかめっちゃかになっている。でも、そこら辺で入り乱れている本は、あくまでも自分の意思で自分の部屋にやってきた本だと思うと、それぞれ愛おしい。こうやって選書する機会をもらうと、入念に考えて、テーマを設けるものだけど、いっそのこと、今、そこら辺にあった本でいいのではないかと思い立った。本棚に入りきらず、そこら辺に積み上がっていた文庫本から、ひとつかみって感じで選んでみた。一回しか読んでなくても、しばらく放置されていても、当然、どれも大切な本だ。

    フヅクエ文庫024
    余裕があって、隙間にユーモアが入り込んで

    とにかくコラムってものが好きで、短い文字数の中に、エッセンスが詰め込まれているのがいい。それでいて、エッセンス、詰め込みましたよ、って感じではいけない。各新聞の1面には名物コラム欄があるけれど、昨今のそれは、さぁ、詰め込みましたよって感じが多い。「勉強になりましたよ」と言われたい体つきをしているのだ。この人のコラムはそうではない。余裕があって、隙間にユーモアが入り込んで、気持ちよく流れていく。 フヅクエ文庫024(選者 武田砂鉄)

    フヅクエ文庫025
    なんでもかんでも決めちゃう必要なんてなくて

    「人間いうのは物事を了解できると安定するんです」とある。だから、突然風船が飛んで来て、それでも平気で話していたら、みんな気になって仕方がなくなるんだと。そのうち、これってこういうことでしょ、そうに違いないと勝手に決めてしまう。でも、なんでもかんでも決めちゃう必要なんてなくて、曖昧なままにして、ずっと沈黙していたって構わないはずなのだ。そう教えてくれる。 フヅクエ文庫025(選者 武田砂鉄)

    フヅクエ文庫026
    愛と毒舌というのはちゃんと同居できるもの

    14歳で日本に帰国したときに、「劣等感」という言葉が飛び交っていることに驚いたのだそう。あるいは、「ハゲ」とか「デブ」とか肉体的な特徴をあげつらう言い方があちこちでおこなわれているのも、信じられなかったそう。文庫本の帯には「没後10年 心に効く愛と毒舌」と書かれている。そうそう、愛と毒舌というのはちゃんと同居できるもの。人間と向き合うと、愛も毒も同時に出てくるとわかります。 フヅクエ文庫026(選者 武田砂鉄)

    フヅクエ文庫027
    心を動かされた形跡

    「会社をやめた私に/いえないことはもう何もない/いいたいことは何でもいえる。/困ったことに/いいたくないことがあるばかり。」と終わる詩に、付箋がつけられていた。なんでそこにつけたのかは思い出せないけれど、つけたくなった気持ちがあったことは思い出せる気がする。2015年に出ている。すぐに買ったはず。会社を辞めた翌年のことだ。詩集につけられている付箋というのは、心を動かされた形跡って感じがして、とてもいい。 フヅクエ文庫027(選者 武田砂鉄)

    フヅクエ文庫028
    忖度しない、周囲の意見を気にしたりなんかしない、冷酷無比の批評家だった

    誰もが知っているあの作品も、最初は評論の世界から無視されたのだそう。最初に認めてくれたのが3歳から5歳くらいまでの幼児で、でも、考えてみれば、その人たちこそ、忖度しない、周囲の意見を気にしたりなんかしない、冷酷無比の批評家だったと。その人たちに受け入れられることは、評論の世界でああだこうだ言われるよりも大事なことだった。直感同士の反応というのか、「これどう?」「いいね」というぶつかり合いのかっこよさ。 フヅクエ文庫028(選者 武田砂鉄)