会社員になってすぐ、ひと月くらいでつらくてもう辞めたい、辞めよう、と思い、その時期に読んでいたのが絲山秋子と長嶋有の文庫本で、それは別に仕事がつらいから読んでいたわけではなくたまたま未読の作品をまとめて読んでいただけなのだけれど、自分としては忘れがたいその一時期にそばにいてくれたひと、みたいに絲山秋子と長嶋有という書き手のことをいまだに思っている。絲山作品には労働がよく描かれるけど長嶋作品はそうでもない印象で、でもこの作品をぱらぱら読み返してみたら、語り手の「僕」は小説家志望で会社を辞めたばかりとあって、案外と当時の自分と重なるところが多かった。重ねて読んだわけじゃないけど。
フヅクエ文庫021(選者 滝口悠生)