稲田俊輔さんが選ぶ5冊

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フヅクエ文庫とは

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誰かにとって大切な本が、また別の誰かにとって大切な本になったらいい。さまざまな選者による、忘れがたい一冊を集めた選書シリーズです。寄せられたコメントに導かれて、思いも寄らない本との出会いをお楽しみください。

選者

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稲田俊輔
料理人・飲食店プロデューサー。 京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て(株)円相フードサービスの設立に参加、南インド料理専門店「エリックサウス」を始め広いジャンルにまたがる多くの飲食店の業態開発やメニュー開発を手がける。 イナダシュンスケ名義では食に関する独特な切り口の情報を発信し、SNS等で度々話題になっている。 近著に『おいしいものでできている』(リトルモア)、『だいたい1ステップか2ステップ! なのに本格インドカレー』(柴田書店)

    選書にあたって

    思い付くままに、自分が夢中になってその世界に没頭してしまった食の本を集めてみました。

    フヅクエ文庫006
    ギリギリの食べ物の数々は、どこかやはり「おいしそう」

    食の本を純粋現実逃避として楽しんでいた僕ですが、時にその領域を超える本に横面をはたかれることも幾度となく経験してきました。
    これは、ジャーナリストである筆者が世界の紛争地帯や貧困地域に分け入って「ギリギリの食」をルポしたものです。グルメブーム真っ只中の日本に冷や水を差すような内容は、飽食の時代に対する疑問を投げかけました。しかし困ったことにそこで活写されるギリギリの食べ物の数々は、どこかやはり「おいしそう」なのです。食べ物は究極の救済なのかもしれません。 フヅクエ文庫006(選者 稲田俊輔)

    フヅクエ文庫007
    昭和の文豪によるどこか浮世離れした料理本

    言わずと知れた昭和の文豪によるどこか浮世離れした料理本です。プロをも凌駕する膨大な知識と経験にもとづく「趣味の料理」の数々は一見豪放磊落ですが、実は細部まで作りやすさや合理性にこだわった実用的なレシピでもあります。発刊から約五十年が経つ今、当時は入手困難だったであろう食材も概ね世に出回っており、今こそが実践のチャンスでもあります。 フヅクエ文庫007(選者 稲田俊輔)

    フヅクエ文庫008
    口に合うか合わないか、そういった感覚を超越した美学

    静謐で美しい食エッセイ。おいしいかおいしくないか、口に合うか合わないか、そういった感覚を超越した美学が貫かれています。昔も今も食の世界は、無理して贅沢をひけらかすかのような虚飾にあふれていますが(そしてそれはそれで時にチャーミングなものではありますが)、そういったものを断固として寄せ付けないこの本の潔さには心が洗われます。 フヅクエ文庫008(選者 稲田俊輔)

    フヅクエ文庫009
    食べることの楽しみがじわじわと伝わってくる珠玉の退屈

    戦後間もない頃に出版された食エッセイ、いや随筆の古典中の古典。戦前の思い出も戦中の窮乏も、垣根なく飄々とつづられています。殊更に情感をこめることもなく、おいしかったものやそうでもなかったものが淡々とつづられる中、食べることの楽しみがじわじわと伝わってくる珠玉の退屈を堪能していただきたい。今とは全く異なる当時の食文化や食に対する価値観を生々しく感じることができるのも興味がつきません。 フヅクエ文庫009(選者 稲田俊輔)

    フヅクエ文庫010
    ただただ真っ直ぐな憧れを抱かせてくれる

    人気漫画家による隠れた(?)名作食エッセイ。作者が日々出会うおいしいものが、流石の流麗な自筆イラストと共に自然体で描かれています。もっとも功なり名を遂げた方の「自然体」なので、庶民の我々から見るとしばしばそれはハイソな何かだったりするのですが、そこには一切の嫌味がなく、ただただ真っ直ぐな憧れを抱かせてくれるのは人徳でしょうか。数々のエピソードに中でもやはり、パートナーである庵野秀明監督が登場すると面白さに一段と拍車がかかります。 フヅクエ文庫010(選者 稲田俊輔)