6月22日(月)
とにかく暇でカレーの仕込みや事務仕事や日記の赤入れを済ませるとやることもなくなってスウィフトを開いた。
暑く、風がなかった。わなをかけ終えると、三人は川岸であおむけに寝ころんだ。ディックが十四で、私は十だった。ポンプがトンプトンプトンプと音をたてていたけれども、これはフェンズならどこでもそうで、ひっきりなしだからこちらもほとんど意識しない。カエルがガアガア、用水路で鳴いていた。上に広がる空には星が群れ、それも見つめているうちに数を増すように思われた。
グレアム・スウィフト『ウォーターランド』(真野泰訳、新潮社)p.11
真野泰が始まった、みたいな感触があってうれしくなって雨の暇な日、営業中の時間、『奇跡も語る者がいなければ』を読んで過ごした日の感触が戻ってきた。あの感触がほしかっただけなら、むしろ『奇跡も語る者がいなければ』を再読したらよかったのかもしれない、とも思ったけれど、「父は以前にも増して、闇に対する思慕、夜ごと覚える徘徊の衝動のとりこになっていた」。
まだ話さずにいる話が何かあって、そのことが片時も頭を離れないというふうにも見えた。というわけで、父が月明かりのもと野菜畑を検分して歩く姿や、眠っている鶏にむかって話しかけている姿、舟を通すための閘門や水量調節用の水門のわきを行きつ戻りつする姿を、私もときに見かけることがあった。そのようなとき、父の動きを教えてくれたのは、ふわふわと宙をさまよう、煙草の先の赤い火だった。
同前 p.12
小説はいいな、と思ってそれで夕飯の簡単な煮物と酢の物をこしらえて、それからもう少しして、7時になってからやっとお客さんが来られた。その人は読んだ。僕も長い時間、読んだ。こんなふうに営業時間を過ごすのはいつ以来だろうと思いながら、だいたい読んでいた。
(しかし、いったいいつから、君は実社会に住む人間になっていたんだい、ルー?)
だからルイスは言う―「歴史は削減対象科目だからね……」と。
「ほかのことだったら……しかし嬰児誘拐ばかりは。子供の誘拐だからね。学校教師の妻が。反響の大きいことは否定できないよ。それに例の新聞報道……」とは言わない。「私だって本当だったら君を応援するさ、トム。君を守る論陣を張るところさ。しかし、いまの状況では―あの授業―あの漫談じゃあ……」とは言わない。
「彼女どうしてる、トム?」とは言わない。
(昔なら気違いと呼ばれたかもしれない状態に、彼女は、ある。昔は癲狂院と呼んだ場所、しかしそんな呼び方をもうしなくなった場所に、彼女は、いる)
「なぜ、あんなことに?」と聞きはしない。
同前 p.43
店じまいをするとすぐにズームに入ってブックストアエイドの打ち合わせ。1時間しゃきっと。その期間全力で突っ走っていたら、クラウドファンディングというのがその期間かき集めるだけではなくて、集めたお金をどうこうして、また、リターンをどうこうしてやっと終わるんだよな、という基本的なことをややもすると忘れそうになっていたところがあった気がした、少なくとも僕はそうで、荷をわりと下ろしていた、背負い直した。
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