今日から「そのときどきのジン」コーナーを担当することになりました「光遠 IP-01」です、初めまして、光に遠いと書いてこうおんと読みます、鹿児島の本坊酒造からやってきました、今日こうやってみなさんとお会いできて、えー、うれしく思っています、お役に立てるようにがんばりたいと思います、なくなるまでの短いあいだですがどうぞよろしくお願いいたします。
光遠くんはね、今の自己紹介にもあったとおり鹿児島からはるばる我が営業所にやってきてくれました。瓶詰め本数900本というひじょーに限られた生産量だったんですが、まあこうやってね、我が営業所にやってきてくれまして、私どもとしてもひじょーにうれしいように、えまあ、思っているところで、えー、ありまして。4月にひと月ほどだったかな、覚えている人もいると思いますが、あはいそう、そう同じ名前のね、光遠くんという方がやはり我々どもと一緒にこう、一致団結してね、ひと月ほどのあいだ過ごしてくれましたけれど、彼はあくまでも「ジャパニーズスピリッツ」としてね、えー、「ジン」というふうには直接的には謳っていなかったんですけどね、えまあ、ジンを名乗る要件はなんなのかというね、問いがみなさんの中にも発生するんじゃないかと、たしかに前の光遠くんもさまざまなボタニカルをね、使っていますよと、そんなふうに言っていた。では今回の光遠くんがそうであるようにジュニパーベリーが必要なのか、それこそがジンを名乗る要件なのかとね、そういう問いがね、今みなさんの頭の中にもふつふつとね、湧いているんじゃないかというところでね、光遠くん、着任そうそうですまないんですけどそのあたりをちょっとね、みんなに説明してもらっても。うん、だからジンのね、定義といいますかね、前の光遠くんがジャパニーズスピリッツで今回の光遠くんがジンであるのはどういう違いかというね、ジンのジンたるはなんぞやと。そう、あはい、そうなんだね。そうしたら明朝またね、満を持して発表していただいて、うん、それまでによく調べておいてもらってね。まあ、ね、自分のことって意外にね、知らなかったりするからね。うんだから今日はいいので、うんそう今日はいいので明朝またね、はい。でまあ話を戻しますけどね、前回の光遠くん、本坊さんの方はジャパニーズスピリッツとしてね、おっしゃっていたんだけれどもね、まあ我々どもは「これがジャパニーズジンだ!」なんて言ってね、信濃屋さんのポップにね、そう書いてあったから私どももね、そうやってこう、「ジンだ!」なんて言ってみてね、そうやってこう、一致団結してね、がんばってきたわけだったんですけど、今回の光遠くんはね、「IP-01」とありますけど、えー、先だっての光遠くんとはまた別物といいますかね、今回は本坊さんの方の「ジンを作るんだ!」という固いね、意思をお持ちになって、日本発のジンの嚆矢としてね、「我が本坊酒造がジンを作るんだ、えいえい、おー」というそういうね、高い志をね、えいえいとね、お持ちになってね、えー、まあその、お作りになっている、そういう光遠くんであるわけでして、IPというのは蒸留責任者の、えー、と、えー、光遠くんまた悪いね光遠くん?あはいそう光遠くんね、蒸留責任者の、どなただったかな、はい、えあの蒸留責任者の、そうそう本坊さんのところの、あそう、まあ初日だからね、緊張とかもね、ええまあ気にしないでリラックスしてね。リラックスしすぎもね、良し悪しだけどね。うん?いやだからリラックスしすぎも良し悪しですねって、そう、はい。でまあその、蒸留責任者の方のアルファベットがね、今回Iであると。それでプロトあ今わたしあ今釜さんね、今釜さん、こういうのすごいね、今って言ったらこういうのってね、思い出しますよね、今って言った瞬間にそうだ今釜さんだったってこう、ストンとね、神ってるって最近は流行ってるんですかね、神がかり的に思い出しましてね、あそれでね、アルファベットって言っちゃったんですけどイニシャルね、イニシャルって言い直そうと思いましてね、それで今アルファベットって言いましたけどってね、言おうと今って言ったところで今釜さんの名前がこう、ストンとね、神ってる状態にね、掛かって、ええそうね、それでですからIPね、ですから今釜さんのEとね、それからプロトあIね、Eでなくね、I、今釜さんのIとね、それからプロトタイプのPというわけでIP、イマガマプロトタイプと。えまあ、勘のいい方だったらおわかりでしょうけど今回の01から始まって02,03とね、こう、歴史は連綿と続いていくと。つきいちで01,02,03とね、3つのプロトタイプをね、試行を重ねてね、そしてそこから量産体制に入ると、そういったIPのね、第一番、嚆矢中の嚆矢としての光遠くんでありましてね、焼酎ベースでね、ボタニカルのほうについても辺塚だいだいであったりけせんの葉であったりっていう我々の耳には馴染みのないね、そんな和のね、鹿児島ローカルなね、いろいろと使っていらっしゃるとのことで、そんなえー彼をね、今日こうやって我が営業所に迎えることができまして私どもとしてもね、ひじょーにうれしい、活躍を期待しているといいますか、してもらわなくっちゃと、高い期待を寄せていると、えー、そういうわけでしてね、それで今朝方はまたちょっと早く目が覚めてしまいましてね……
そのように彼の人の話は続くわけだったのだが、昨日バズバズしてらっしゃった「人生に、文学を。」というろくでもないプロジェクトのページを見て苛立ちを私は募らせたというか本当に気色が悪いしあのページを見て「そうだ、文学を読もう」となった人が一人でも発生するのだろうか、一人くらいは発生するのかもしれないけれども、発生する数よりも圧倒的に「はいはい文学さんはお偉いこっちゃねー」と敵を作る数うんざりさせる数のほうが多いに違いないわけで、辟易した。援護射撃のつもりで仲間を後ろから撃つみたいな、そういう光景に見える。内側にこそ一番の敵はいる。そういう光景に見える。
こういうことはよくあることで、それの一つとしてしばしば思い出すことがあって、演劇をやっているという方と話す機会というか飲みの場で話す機会というか顔を合わせる機会があって、僕はちょうどマームとジプシーを見たばかりだったので「そういえば最近マームとジプシー見たんですよ」と言ったところ、「ああ…みんな好きですよね」と苦笑いを浮かべて返してくる、ということがあって、「はいはい」と思った、というそれを思い出す。
わかっているよ、演劇といったらこれまではチェルフィッチュくらいしか見なくてしかもやたらチェルフィッチュ好きでそれで最近はマームとジプシーに熱を上げている、っていうこの感じがどう映るかなんて。演劇の外側にしばしば見かけるタイプの嗜好なんだろうなっていうのはわかっているよ。でもさ、こちらとしてはさ、いろいろ見てみたい気はするけど知らないからなに見ていいかわからないし見に行って失敗してまで見たいというふうにもならないから間違えないところで固めちゃってどうも広がらないみたいな、でもチェルフィッチュにせよマームにせよ見るたびにガッツリやられるからそれでいっか、十分か、ってなってるわけですよ、でもいい経験ならしたいから知りたいよ、そう思っているわけですよ、でもどう手を伸ばしたらいいかさ、ジャンル外の人間ってわからないんですよ、わからないんですよ外側の私には、ジャンルに明るくない私には、だからさ、あなたはもろに内側の人なわけじゃないですか完全に、でなんかこう頭のなかに地図とかあるわけでしょう、知らないけどさ、まあ地図じゃなくてリストでもいいんだけどさ、あるわけでしょ、これが好きだったらこれも面白いかなとかさ、ご自身のお気に入りとかさ、もちろん自分の劇団でもいいんだけどさ、これ見てみたらいいのになとか、これ面白いのになとか、あるわけでしょ。それをさ、教えてくれたらいいんじゃないですか?「みんな好きですよね」ってさ、その薄笑いはさ、なにも生まないからね。それ聞いた外の人間であるところの俺に生じるのは「あーはい敷居はい敷居〜〜〜」っていうだけだからね、それ一円の金にもならないからね、演劇にとって。内側にいるあなたがジャンルの壁を築くの手伝ってどうしたいわけ?チェルフィッチュとマームっていう典型的な人間は入ってこなくていい?ならいいよ。自覚的な振る舞いならそれでいいよ。でももしそうでないならさ、演劇にさ、招き入れようとしてよ。やさしくさ。それでいてしたたかにさ。その冷笑で何をもたらしたいのか教えてくれないか?冷笑は嬉しくなれるものをなにひとつ生まないと俺は思うんだよ。俺は冷笑が世界をよくした場面なんて一度たりとも見たことがないんだよ。