魂を売らないために時間と体力を売る

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これはフヅクエとは関係のない、極々個人的な話です、という注意書きから始めたい。
友人が「今度夜に貸し切りで使わせて」と申し出てくれたときに「貸し切りってことはその日は営業は休むということなんだけど、やっぱりフヅクエをフヅクエとして来てくれる人のために開けたいなと思う」ので断る、という出来事が先日あった。
夜の貸し切り、すべてがすべてノーだとは思っていないのだけど、基本的な姿勢としてはやはりフヅクエをフヅクエとして来てくれる、ええと、フヅクエとしてのフヅクエに来てくれる、かな、だろうか、まいいや、そっちにする、フヅクエとしてのフヅクエに来てくれる人のために僕はこの店を開けたい。そうありたい。
魂を売ること。
例えば会話も小声でならばオーケーですよにする、持続的でなければ構いませんよにする。例えばカフェとでも銘打って看板を出す。静かな時間を過ごすというニーズも気構えも持たない二人組がやってきて必死におしゃべりを我慢してクスクスと笑う。コソコソと話し続ける。空気が乱れる。それはフヅクエとしてのフヅクエに来てくれる人たちの時間を毀損する。
例えば頻繁にイベントや貸し切りをやり通常営業の割合を減らす。それはフヅクエとしてのフヅクエに来てくれる人たちの機会を奪う。
正直、魂を売るといってもどんな売り方があるのかあまり想像がつかないのだけど、例えばそんなところだろうか。それで必要な売上が作れるならありだろうか。続けることが大切と書いたばかりだけど、それで続けることができるならばありなのだろうか。
そりゃなしっしょ、というのが答えで。そもそもそんなことやっても俺が気分よくないし、と。
しかし、ひとまず、こりゃこのままじゃ続かんな、見通し甘すぎました、となった。貯金の底が明確に見えた。井戸を上から覗いているイメージなんだけど、「あーこれは落ちたら骨折で済んだらラッキーってくらい浅いっすわ、水。クリアに見えますわ、底」という水準になり、「完全に金作ること必要。早急に止血処理しないと本当にあれになる。これは奥の手発動っすわ」となった。ほんとやりたくなかったのだけど、自分の時間と体力を売ることにした。
そんなわけで5月半ばから昼の時間に定食屋をやっている。カレンダーを見たら5月19日の火曜日からになっている。その前日までの一週間、シネマヴェーラに通って10本の映画を見ている。単純に見たい特集が続けてあったから通ったのだけど、「もう平日の昼間は自由に使えなくなるのだから…!」という気持ちに駆り立てられているようにも見える。
定食屋。屋号は「This is NOT fuzkue」にしようかと思ったけど「定食山田」にした。
定食鈴木は初台のオフィスワーカーを主なターゲットにし、野菜や雑穀ご飯を押し出すことでオフィサーたちの「たまには体にいいもの、食べたいヨネ」をくすぐり、ワーカーズの「でもお腹いっぱいにもなりたいゾ」に対してもご飯おかわりをアピールすることでカバー。その結果OWたちは定食佐藤の魅力に釘付け。「週に一度は、定食田中に行きたいネ!」の声が初台中に響き渡るっ…!
という筋書きで始めたんですが、さっき数えたら始めてまだ7週なのでこの先どうなるのか、一巡して終わるみたいなことになったら怖いなとか思っているくらいの段階なのだけど、まあ今のところはいいように推移している感じで、とりあえず。しかも昼の定食屋とかもっとなんか殺伐かな、そっちがその気ならこっちもマシーンになるぞ、味噌汁に親指突っ込みながらドーンみたいなことするぞ、みたいなどうなんだそれはという構えで始めたのだけど、あたたかみを感じる瞬間というか、あ、全然ヒューマン、というか、総じて気分まるで悪くないな、という意想外の感覚も持てているのでありがたく。
そういうわけで何度も言っている通りフヅクエは繁盛店というか人気店になる予定なんですが、それを諦めては一切いないんですが、まあ時間掛かるわ(思ったより)というところで、僕の貯金問題=フヅクエの存続問題は定食中田&大谷の売上と定食栗山の尽力によりひとまず止血されたので、なんというかひと安心というかご安心くださいというか少なくても俺および定食メンドーサにとってはよかったし続いてほしいと思ってくださっていた方々および定食クロッタにとっても朗報だよね、という話というか定食陽岱鋼でした。
以上、定食斎藤の阿久津がフヅクエのブログをお借りしてお届けしました。
(写真中央はたくさん使うためたくさん買った安価なグラスの様子です)
photo by 斉藤幸子