抜粋
9月16日(月)
帰り、ご飯が済んでいる気持ちの余裕があるのかパソコンの前に座って開発環境と本番環境の切り分け作業を少し進めて、気が済むと『正反対な君と僕』の最新話を読んでタイラズマ回で最高最高だった。平よ、と思う。平の憑き物が落ちるような顔のところを何度も読んでしまった。東よ、と思う。いま誰よりも素直で明るいキャラクターになっていてその変化に何度でも感動する。サトちゃんの「人の恋愛話を聞くのは好きだけど、その人の近況を知りたいって感じで別に共感してるわけではないしな」のところもよかった。本当にいい漫画。それから布団に入ると『百年の孤独』がいよいよ終わりに向かっていて、人がどんどんいなくなる。屋敷が荒廃に飲み込まれてしまいそうで切ない。
9月17日(火)
夕方に月に一冊以上本を読む人の割合がついに5割を切った、というニュースを見て国語に関する世論調査のやつだ。前回が2018年でそのときから10%以上どうのこうの、ということだったが、これも読了が前提の問いなんだよな、と思う。月に何日本を開きますか、のほうが適切なのでは。適切というか、最初の問いは頻度なのではないか。スポーツに関する調査だったら頻度から始まってそう。読了数を聞くというのは、「月に何試合こなしますか」と近い感じがする。ともあれ減ってはいるのだろうけれど、憂いたところで増えないのだから、読書をもっと広げたい人がすべきことは楽しむ姿を見せることだろう。憂い顔も押し付けも何も前向きな変化は起こさない。あらゆる「こうあらねばならぬ」、あらゆる「こうあるべき」から読書を解き放つことに貢献したい、という気持ちが僕はけっこうあるというか、とにかく癪なんだと思う。ただの楽しい趣味なのに、なんで本だけがこんな退屈な土俵に乗せられなければいけないのか、と。
9月18日(水)
それで炒め物ができてアーセナルにゴールが生まれたしノースロンドンダービーはもういいかなと、シティとボーンマスだったかの試合に移り、ピーマンと豚肉は今日も激烈においしくて、おいしくて、ご飯3杯食べちゃった。食べ終えたら泥のように眠くなり、ソファで30分くらい時間を溶かしちゃった。それから洗い物をして歯を磨いて布団に入ってマコンド入り。マコンドの荒廃は進み、もう列車も停まらなくなった。いよいよ消えてしまいそうで胸が締め付けられる。
9月19日(木)
布団。マコンド。とうとう。最後はカタルシスがあるけれど、そこに至るまではこんなにも寂しいものだったのか、と最後まで驚きながら読み終え、これはやっぱり偉大な小説だった、と思う。
9月20日(金)
家で夕方まで働いているとすでに疲れていた。出、初台。今日は度し難く暇な日のようで、せめて夜、と思ったのだが夜もまったくダメだった。不安定な店、と思う。
9月21日(土)
そろそろ出ようと思っているとひとつの通知に気づいて、もう何かで知っているかもだが、福田先生が亡くなられた、ゼミ生には葬儀の案内をしていいということだったので案内する、という連絡だった。
ちょうど今日、ごぼうを炒めているときだったか、福田先生の『作家の値うち』のことを考えていた。『楡家の人びと』がずうっと気になっているのはたぶん『作家の値うち』で高評価をされているのを見て以来で、だから20年近く気になり続けているということだ。100人とかの作家を取り上げて作品ごとに点数をつけるという本で、『楡家の人びと』は限りなく100点に近かった気がする。そう思ってから、高橋源一郎は『さようなら、ギャングたち』だけ高得点で他の作品は20点とか、保坂和志は軒並み低めだったっけか、江國香織は軒並み高得点だった記憶、阿部和重のところで「自家薬籠」という言葉を見た記憶がある、そういうことをごぼうを炒めながら順番に思い出していた。いま僕は、と出汁とかを入れながら考えていた。いま僕は、何かに点数をつけるということに抵抗や忌避感を持っているけれども、僕が嫌なのは傷を負う覚悟、返り討ちに遭う覚悟のない点数づけなのかもしれない、この本にはむしろ清々しさを感じる、かっこいいと感じる、戦いそのものだと感じる、と昼間、炒めて薄味で煮たごぼうを味噌とかんずりで絡めながら私は考えていた。その福田先生が亡くなった。
9月22日(日)
阿波おどりの喧騒から逃げ、調布戻り。銭湯に行って帰ってお粥食べて寝ることにし、その前にくまざわ書店に。『楡家の人びと』を求めて。新潮文庫だった気がすると思って新潮文庫の棚に行くとあったのは『どくとるマンボウ』シリーズの2冊で『楡家の人びと』はなかった。袖の「新潮文庫 北杜夫の本」のところを見ていくと「楡家の人びと」の文字は見えず、新潮ではなかったか、と思って検索したら新潮だった。袖をもう一度見ると「楡家の人びと(第一部〜三部)」とあるのを見つけ、文字数によって間隔が変わる文字組みなので、もっとゆったりしたものを考えていたら意想外にたくさんの文字でぎゅっとしていたことによって目に入らなかった模様。ともあれ今日ここにはなく、さてどうしよう、なんか面白ノンフィクション、と方針変更をして前にここで見かけたインデックス投資のやつとか、でもタイトル思い出せそうにない、と思いながらなんとなくうろうろしていたら「『マネー・ボール』の著者、待望の最新作」とあって金融詐欺師のお話とのこと。前書きを読んで、特別惹かれる前書きではなかったが、きっと面白いのだろう、と思って買うことにした。著者への信頼。