抜粋
6月17日(月)
下高井戸シネマで『Here』。ソファから起き上がると冷蔵庫を開いて、冷蔵庫はしっかりした大きさだがワンドアの冷蔵専用で、床ギリギリまでドア。そこから束の人参が取り出され、束の葉野菜が取り出され、充実した冷蔵庫だなと思っているとさらに野菜が取り出され、カットが変わると鍋でコトコトと煮える赤いスープ。タッパーが用意された。小分けにしての冷凍保存ということだろうか。
そういう始まりでスープは友人や親戚に分け与えられるものとしてあり、スープを渡すと、人々はその返礼のように何かを語り出した。
静かでゆっくりしていてそれだけではなく辛苦もあって、でもやっぱり静かでゆっくりしていてとても心地よく、『すべての夜を思いだす』を思い出させる散歩映画だった。『茄子の輝き』のようでもあった。
6月18日(火)
早朝に遊ちゃんが盛岡に向けて出て、それでいったん起きたので『消去』を開いた。一週間前の結婚式のこと。神父はほろ酔い加減のご様子。
新郎新婦にあのよく知られた承諾の返事をしあう覚悟はあるかと尋ねる、儀式の頂点まできたときに、彼は新婦の名を忘れてしまい、長い妙な間を開けたあげくに、大きな声で助けを求め、新婦の名を聞いた。それに対して父が実に毅然と答えたので、一瞬礼拝堂と玄関じゅうに哄笑が響いた。神父は新郎の名も覚えていなかったので、それも聞かねばならなかった。父は、今度はもう憤慨しながら大きな声で教えてやったが、それに続いて、神父が初回にど忘れしたときよりももっと大きな哄笑が礼拝堂と玄関でわき起こった。私はこのとき、将来の義弟の名でなく、「ワインボトル用コルク栓製造業者」と、みなの頭ごしに礼拝堂へ向けて叫びたくてたまらなくなったが、最後の瞬間に自制することができた。私の下劣さは私だけの秘密にとどまった、と私は考えた。
トーマス・ベルンハルト『消去』(池田信雄訳、みすず書房)p.250
昨夜読んでいたはずだが全然頭に入っていなかったみたいでこんなに面白い箇所をくすりとも笑わずに行き過ぎていたなんて、と思いながら、「ワインボトル用コルク栓製造業者!」、面白くて、声を上げて笑ってからまた寝た。
6月19日(水)
カルディに寄り、それから三省堂に寄った。『エル・ゴラッソ』がないかと思ってだったがなく、代わりにエル・ゴラッソ特別編集の『リバプール完全読本 ユルゲン・クロップ 2015-2024』というムックが見えてその時代についてのテキストを読みたいと思ったので買うことに。図書カードで買った。『エル・ゴラッソ』を諦めきれなかったのでTSUTAYA BOOKSTOREにも寄ったがスポーツ雑誌コーナー自体がなかった。代わりに『小説トリッパー』が目に入って「TRIPPER」の文字を見ると「トリッピアー?」と思った。TRIPPIERだ。イングランド代表のサイドバック。
6月20日(木)
お先に失礼してホームで『みどりいせき』を開くとまどかさんが「十時間くらいで落ちるから、それを忘れずに全部受け入れて、身をゆだねれば絶対大丈夫」と言っていた。車での長い移動。
「もうそろそろ着くね」ってまどかさんの言葉が聞こえてようやくまぶたを開くことができた。
視界は異常にチカチカしてわずらわしい。まぶしさに慣れても、かすみがかかっていて見づらい。繁った竹の葉が何重にもブレて見えるから緑色のワープトンネルをくぐってるみたい。空気がうすい感じがして息苦しい。外の空気を吸うために窓を開けると葉ずれの音がのびたりちぢんだりをくりかえして途切れることなく車を包み込んでいた。すれ違う車はもうほとんどいないし、数少ない人工物の側溝とか標識とかガードレールも次第にとぎれとぎれんなるから、なんだか山に飲み込まれているよーな気分になった。
大田ステファニー歓人『みどりいせき』(集英社)p.172
読みながら帰り、軽くでもいいから炭水化物を、と思ってコンビニで冷やし中華と迷ってからサラダパスタを買った。
6月21日(金)
10時近くになって出ると外はひんやりしていて肌寒いくらいだった。金曜夜の下北沢は人でいっぱいだった。ボーナストラックはもう人はいなかった。店に行くと瀬崎くんが片付けをしていた、聞くとお腹ペコペコで食べたいということだったので、片付けが終わるのを待ち、そしてパフェをつくっていった。
完璧。大満足。超きれい。完成!
6月22日(土)
6時にすっぱりと山口くんと交代して帰り、今日は疲れているので銭湯とも思っていたが銭湯に行くのもだるく、足取りが重い。荷物が体を押しつぶしてくる。最近パフェばかり食べていて食事がいい加減だったのを取り返すように今日は野菜とタンパク質をたくさん摂ろうとオオゼキで鶏肉とカブとかを買ってカブは今日は大安売りだった。カブ大好き。ズッキーニは今日は見当たらなかった。ズッキーニも大好き。
それにしたってひどい疲れだ。全身が重たくて重たくて仕方がない。家に帰ると元気を取り戻すべく布団に倒れ、寝室に持っていったiPadを開いてポルトガルとチェコの試合の最後の20分を見届けることにしてチェコはいい試合をしていたが最後にポルトガルに勝ち越されてしまった。終わると1時間のアラームを掛けて寝、鳴るとさらに30分掛けた。それで起きたが状態は寝る前からなにひとつ変わっておらず、ダメだ。全然ダメ。今日無理。ダメ。気づいたら『リバプール完全読本』を開いていてクロップがどういう状況で就任したのかを学んだりしていた。
6月23日(日)
金田さんがカバンから『あらゆることは今起こる』を出して、フヅクエの人たちのこの本を読んでいる率がすごい。僕の知る限り、僕、山口くん、川又さん、敷野くん、酒井さん、牧野さん、そして金田さんがこの本を所持している。