読書の日記(4/29-5/5)

2024.05.10
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抜粋

4月29日(月) 

だから夜になるまで僕は仕事をしていないわけだ。いったい何をしているんだろうと思う。土曜日に休んだばかりじゃないか。ダウナーを言い訳にするのもたいがいにしてほしい。せめて、と思い数時間どうにか働き、仕事を切り上げるとリヴァプールとウェストハムの試合を見ながら30分バイクを漕ぎ、汗だくになる、リヴァプールは後半に追いつかれてドローで終えて完全に優勝争いから脱落することになるゲームだ、見ていて辛くなる感じがある、しかしバイクは辛くならない、昨日漕ぐのを休んでいて疲労が回復しているからなのか、あるいはいくらか筋力がついてきたのか理由はわからないが楽ちんな感じがあって変化にうれしくなる、出てけ、出てけ、暗い気分は出てけ、と思いながらぐんぐん漕ぐ、汗をびちゃびちゃにかく。

4月30日(火) 

今日はだから暦の上では平日だがどれだけゴールデンウィークなのかという日で、去年の数字を見るとそういう日も完全に休日だったので今年はそれを踏まえて休日シフトをしっかり組んでいるわけだが、去年は休日と休日のあいだの平日がたしか2日とかで、今年は3日だから、その違いはだいぶ大きいのかもしれない。会社員の戸塚さんも3日のうち木曜だけ休みを取って火曜水曜は普通に働くと言っていた。どうなるか、予約は少ない、やっぱり暇か、そう思いながら開けたところゆっくりじわじわとだったがお客さんはやってきてくれていったん満席になるところまでは行った。だがスローな感じはあって2時半くらいになると僕は食べそこねたご飯を食べに外に出て駅前のそば屋さんでミニかき揚げ丼セット。戻り、やっぱりゆっくりなのでほうきとちりとりを持って外に出て階段を掃除した。

5月1日(水) 

今日は一日雨でよく降っている。外に出ることなくずうっと働き、暗くなり、何度か、雨は弱まっただろうか、もしやんだりするようならば、電話を掛けて、『氷の城壁』が入荷したか聞いて、散歩がてらくまざわ書店に行くのもいいかもしれないと考えるが、雨はやまず、時間も過ぎていく。今回から隔月の発売になったようでそれは続きを待望する私たちには無慈悲なことだが、その発売日がたしか明日だった。前日とかに入荷している可能性はあるだろうか。

5月2日(木) 

ノンストップでびゃーっと働き続けて楽しかった。終わるとビール飲んで帰る。
駅で前を歩いていた人が鮮やかなグリーンのワンピースを着ていて、その前を歩いている人は鮮やかなグリーンの靴下を履いていて、同じ色ですよ、と言いたくなった。いい色だった。
セブンに寄って温玉ビビンバ丼 と直火焼きさばのおろしぽん酢を買って帰る。

5月3日(金) 

5時まで大河内さん、5時から戸塚さんで一生懸命働いて今日も12時間ノンストップで働き続け、夜は余裕があったので明日が少しでも楽になるようにといろいろやっていたら継ぎ目のないまま閉店時間になり、終えるとビール。終電で帰る。

5月4日(土) 

満腹になって洗い物も済ませるとまた部屋に戻ってポスターを完成させて入稿。それで今日の仕事はおしまいにしてベルンハルトの『消去』を読み始めちゃうことにして布団に持っていった。「電報」という章が始まった。
二十九日にピンチオの丘で教え子のガンベッティと落ち合い、五月の授業日程の打ち合わせを終えた私は、とフランツ-ヨーゼフ・ムーラウは記す、ヴォルフスエックから戻ったばかりのそのときも改めてガンベッティの高度な知性に目を見張る思いをさせられ、大いに感激したこともあって、コンドッティ街からミネルヴァ広場に直行するふだんの道を通らず、フラミナ街からポポロ広場経由でコルソへ抜ける道をとったのだが、オーストリアでなくローマこそ自分の住処だと思いはじめてもう久しくなると考えるうちにだんだん気持ちがはずんできたので、しばらくコルソをぶらついてから家に戻った矢先の午後二時頃、両親と兄ヨハネスの死を告げる一通の電報を受け取ったのだった。 トーマス・ベルンハルト『消去』(池田信雄訳、みすず書房)p.5
存外に明るいトーンから一文の中できっちり落としてくるところに、のっけからぷーっと吹き出してしまって、ニヤニヤと笑みが顔に広がるのを抑えることなく読んで、そのまま何度もクスクス笑いながら、これは、おっかしーなー、と思いながら、幸せな心地で、ベルンハルトの文章に体が浸っていくのを感じた。

5月5日(日) 

帰ってとりあえず運動することにしてバイクを漕いだ。今日は遊ちゃんが最近見ているというネットフリックスのドキュメンタリーの『Cooked:人間は料理をする』を見ながら漕ぐことにしてマイケル・ポーランの『人間は料理をする』は僕の中では最高料理ノンフィクションのひとつで、もうひとつは『食の未来のためのフィールドノート』だった。この牙城が何年も崩れず、こんなふうな面白さの料理ノンフィクションを読みたい気持ちはいつもあった。それでそれを再生してアボリジニの野焼きの映像で始まって、こういう画面、こういう撮影の文法がネットフリックスのドキュメンタリーの何かなんだろうな、それは少し鼻白む何かだな、と思いながら見始めるがマイケル・ポーランの『人間は料理をする』が面白い以上はやっぱり面白く、今日も大汗をかきながらピットマスターによるバーベキューの様子を見ながら面白く漕いで今日は疲れた。
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