読書の日記(4/22-28)

2024.05.03
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抜粋

4月22日(月) 

一日シフト。座れたのは10時半くらいになってからで、今日もたくさん働いた。今週はウィークデーはゴールデンウィークに向けてひたすら備える感覚で、備蓄をつくる感覚で、明日からも仕込みが大変だろうというところで今日やれることはとにかくやっていった。終えたらヘトヘトだが不思議とビールに手は出ず、酒飲むよりも帰ってバイク漕ぎたい、という気持ちが上回っていておかしなものだった。仕込んだカレーの余りとかで晩ご飯を食べると帰り、セブンで大谷翔平とドジャース特集の『Number』とビールを買い、家に着くとむっと暑い空気で夏になっていくのだなあと思う。

4月23日(火) 

帰るとまずはバイクで今日は蟹の親子『脳のお休み』を読みながら漕ぐことにした。にきびをカミソリで潰す場面を「うひー」と全身を粟立てながら読み、それから自転車を漕ぐ様子を読んだ。
穏和な河川を見下ろせる、清々しい場所だった。鉄橋は色褪せたミント色で、ビュンビュンと通るトラックや自家用車の走行音が、耳の内側を伝って私の身体の中で響く。橋を渡り終えた後も、またどこかへ向かえる予感がした。
道の端に自転車を寄せ、リュックから日焼け止めをとると、肌の出ている箇所に塗り重ねた。再びハンドルを握ると、京王線の通っている方角へ向けて漕ぎ始める。
後で確かめたら、北西に向かっていた。だが、走っているあいだはスマホのマップはもちろん、案内標識も見ていなかった。あの辺に出るのだろうな、という直感に任せた。道が開いているほうへ、ぐんぐん進む。
失速しないこのエネルギー、ペダルをひたすら踏みつける力というのは、脚の付け根や、足首の一番細い所、足の親指の爪、そういう細部の先端からちびちびと、湧いてきているものだった。かき集めれば、私の身体にもこれぐらい進める力があるんだと思った。爽快だ。 蟹の親子『脳のお休み』(百万年書房)p.18,19
汗だくになりながらどこにも進まないバイクを漕ぎながら、自転車で遠くへ遠くへ走っていく感覚、体が向こうへ向こうへ運ばれていく、景色が流れていく、その感じを思い出して清々しさがあった。言葉が鮮やかで強くて「すごいなこれ」と、どこか憧れのようなものを感じながらページをめくり続ける。

4月24日(水) 

コーヒーを淹れて水を用意してまずは先週の日記を書き終えるところだがこれが妙に時間が掛かり、『恐るべき緑』の「プルシアン・ブルー」がどう書かれていたのか、あの小説で何が起きていたのか、そこを書いていくのにやたら時間が取られて、あらかた読み直すような感じになった。僕は特にプルシアン・ブルーをつくりだしたシェーレがグリーンもつくっていてその色をナポレオンが好んでいて、グリーンにはヒ素が使われていて、というところからシアン化物に戻ってアラン・チューリングが出てきてチューリングがガスマスクをかぶるところから戦争の毒ガス攻撃に至る流れにビリビリ痺れる感じがあった。かっこいいジャムバンドみたい。どっか行ったと思ったら戻ってきた〜! というときのあの興奮。両腕突き上げて咆哮したくなる。笑顔で。でも笑顔も課業になればすぐにこわばるからほどほどに。

4月25日(木) 

それからミーチング、楽しい話ができた。それからうどん、おいしいうどんを食べられた。今日も『Number』を読みながらで今日は山本由伸の記事から読んだが見開きで横長の写真は前景が黒い影の帯になっていてその向こうに今まさにボールを投じようとしている山本の姿が真横から捉えられて、さらに向こうにぼやけた観客、うっすらと青い影、上に行くとすっかり黒、となっていてかっこよかった。文章もすごくよくて朴賛浩の散々なドジャースデビューでありメジャーデビューの試合から描かれ、やはり散々なドジャースデビューでありメジャーデビューだった山本由伸が重ねられ、朴賛浩はそこから華々しいキャリアを築いていった。朴賛浩は山本が投げた韓国での開幕シリーズで始球式を務めた。見事だなあと思う。やっぱり『Number』はかっこいい。美意識や矜持や伝統が息づいている。うどんはお腹をいっぱいにする。

4月26日(金) 

帰宅し、自分が暗くなっていく、塞いでいく、殻にこもっていくのを感じる。体が疲れていたが明後日は漕げないだろうから今日やらないとたちまち習慣が途絶えそうなので漕ぐことにしてフィットネスバイクをテーブル近くに引っ張っていきパソコンを置いてリヴァプールの試合の続きを見ながら今日は軽負荷で30分。

4月27日(土) 

飲み終えるとボーナストラックを出、ミカンの中を通るとそれぞれの店の中にたくさんの人がいてみんなここにいるのかと思う。TSUTAYAに入り、遊ちゃんが『センスの哲学』を買って僕は米澤穂信の『冬期限定ボンボンショコラ事件』を買った。今日エゴサをしていたら見かけてびっくりした。とうとう出たのかと。多分サラリーマン時代、啓文社の岡山本店で春期限定を買ってよっぽど面白かったのかすぐに夏と秋を買って数日のあいだで春から秋まで全部読んで、次は冬! と思ってから15年待ったわけだ。

4月28日(日) 

突然どうしちゃったんだろうなと思う。あらゆる意欲と気力が突如として萎えてしまった。ここしばらくはメンタルは調子よかったのだがこういうのは突然来るものだなと思う。完全なる無気力。暗い顔で準備し、暗い顔で出、暗い顔で歩き、暗い顔で電車に乗る。たまに自分が暗い顔をしているのを自覚して少し引き締めるがきっとすぐに弛んでいるのだろう。
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