抜粋
4月8日(月)
夜になって遊ちゃんが買い物に行くというので僕も一緒に行って鶏肉やチョコレート等を買い、夕飯はホワイトアスパラガスのリゾットと鶏肉キャベツ人参小松菜のオーブン焼き。ぼんやりとアーセナルとブライトンの試合を見ながら食べた。寝る前は『2666』。ブービス夫人の再登場! 盛り上がるというか、700ページ前に読んだ人がまた出てきて、みたいな感じ、ぐっと来る〜!
4月9日(火)
帰ってもすぐには食事にはせず、ビールは飲みつつ、もう1時間か2時間か仕事を進めて何かが前に進んでいく感覚があってよかった。それから夕飯で玉ねぎエリンギ舞茸しめじベーコン、それでリゾットでオーブン焼きは鶏肉人参キャベツ。リゾットはチーズを多めに削った。サッカー見た。食べ終えると布団に入った。インゲボルクが体調不良。
4月10日(水)
昨日の夜に遊ちゃんに「明日の昼はきのこリゾットを振る舞う」と宣言していた、今日の休憩時間も聞いて12時からの1時間ということだったので12時に間に合うようにリゾットに着手し、ベーコンについてまだ意見を聞いていなかったので鶏肉でつくることにした。昨日は米が多くて均一に煮えない感じに困らされたので普段のフライパンではなくストウブでつくってみた。円柱形なので均一感が出るかと思い。
4月11日(木)
夜の集客改善のためのポスター制作を、気づいたら始めていて、悪癖で、いつのまにか手を動かしていて、そういえばと思ってPhotoshopで背景を拡張みたいなことができるようになったとか見たのを思い出して不慣れなPhotoshopを開いて「ジェネレーティブ塗りつぶし」という機能だった。本を持つ手とお酒のグラスの横長の写真の上側にあるサッシ、窓、壁を上に上に拡張させて縦長の写真になった。すっげー! しかしサッシに余計なものが生成されてはいて何かグネッとした、金属が溶けたような広がり。エイフェックス・ツインのビデオを思い出す不気味な何かだった。
4月12日(金)
午後に出、下北沢。指圧に行けたらとも思っていたがその時間はなさそうで、ボーナストラックに行って少し仕事と河内晩柑シロップの試飲、布巾のお渡しと回収、それで『恐るべき緑』を買いにB&Bに行くと最初のところで『生と死を分ける翻訳』という本があってさっき翻訳の権力性というか、一平事件はかなりのところ通訳者という立場を駆使したサスペンスになっていて、通訳が言ったことを嘘だと疑う気持ちはそんなに自然に持てるものではない、少なくともその場ではいったんその通りに受け取られる、公にされているものは事後的な検証には晒され得るけれど、そして検証や訳し直しなんて今やとても簡単にできてしまうにもかかわらず、報道されるのはたぶん基本的には通訳によって発せられた言葉だ。どんなニュースでもそうだけど一度生じてしまった印象を完全に塗り替えるのは無理で、それは誤りで正しいのはこっちだったんです、の力は弱い。これはすごいことなんだよなと思いながら歩きていたのでその本が目に止まり、目次を見ると「翻訳力が権力を持つとき」という文字が目に入ってとてもうってつけの感じだったので取った。
4月13日(土)
布団。遊ちゃんが何を食べたのかと聞いてきたのでハンバーグとキムチとブロッコリーと椎茸だと答え、ブロッコリーと椎茸の炒め物がとてもおいしかったと言うと
「やっぱチンパンジーって胃腸が強いんだね」
と言った。
「なんの話?」
「野菜」
「チンパンジーはなんの関係があるの?」
「んー、わかんない」
と言いながらむにゃむにゃと眠りに戻っていった。もしそうだとしたらかなり衝撃的だが、実は僕はチンパンジーだと思われているのだろうか。
4月14日(日)
布団、『2666』、1995年、ロッテ・ハース、サンタテレサの弁護士と電話、ドイツ語とスペイン語と英語の成り立たない会話、そして通訳の招聘。やってきたのは「まっすぐで明るい栗色の髪をした、ジーンズ姿の二十五歳くらいの若い女」。
イングリッドとロッテの出会いの場面はとても胸を打つものだった。第一部の別々の国に暮らす学者たちの言葉の交通とはまた違う、ぎこちなさをはらんだ多言語の行き来にもぐっと来るし、イングリッドの振る舞いのひとつひとつにもぐっと来る。通訳という存在は情報を捻じ曲げることもできる一方で、衝撃を最初に引き受ける役割を担うこともできるわけだ。このあとイングリッドとロッテとのあいだには友情のようなものが形成される。サントラヤとロッテとのあいだにも。そしてブービス夫人とロッテとのあいだにも。ずうっと感動がさざなみのようにやってくるのを感じながらページをめくっていった。