抜粋
3月4日(月)
で、くまざわ書店。コミックのところに直行するとありましたよ『氷の城壁』。しかし表紙は、誰だこれは、こゆんの元カレ? ここでなぜ? そう思いながらこれも午前中に読んでいた連載で今日発売だと知った『正反対な君と僕』の最新巻も取って買ってホクホクしながら入館し、今はお仕事の時間なので漫画は我慢。つまりまんがまん。働く。しかしまた頭がとっ散らかって整理できず、靄がかかったような感じ。すごく思考力が落ちている感じ。なんでこんな感じなんだろうと悪戦するが、敗戦。ルーザーの感覚で9時ごろ出、成城石井でパン、オオゼキで肉と野菜、銭湯でウィトルウィウス的人体図。
3月5日(火)
バリカン、シャワー、オーブン焼き。鶏肉、蓮根、玉ねぎ、人参、キャベツ、アスパラガス。シティとユナイテッドの試合の続きを見ながら。今日は全体的に焼きすぎたのか、あんまり満足感がなかった。フォーデンが決めた。見ているとすごい頻度でドクにボールが渡って、しかしそこからなかなかいい感じにはできない、それでもボールは集まり続ける。林さんはドクはもっとやれるはず、と言う。最近ちょっと消極的になっているとのこと。
なんで今日のオーブン焼きは微妙になったのだろうと思いながら食事を終え、布団で『2666』。アマルフィターノが幾何学の本のミステリーと向き合っている。鬱屈としていく。
3月6日(水)
今日は一日シフト。暇な時間ができたらと思って『2666』をリュックに入れる。今日も雨が降っているし空気が冷たい。初台に着くとまいばすけっとに行ってパイの実を買う。開店前は味噌汁を仕込んだり給与計算をしたり。昨日でタスクの整理がついて、明日からの俺に期待、と思っていたわけだが、新たなビューでタスクを見ても頭がすっきりする感じはなくて失敗している気がする。今週返すメールという親タスクに入れたところから着手して、それ全然、真っ先じゃないでしょう、と呆れるように思う。
雨は昼ごろにはやんで、寒い日だったがお客さんはコツコツとあっていい調子で一日働く。十中八九そうなるだろうと思っていた通り、本が開かれることはなかった。
3月7日(木)
布団に入ると遊ちゃんが目を覚ましていて、じゃあ音読しようと言って「ちょうどその時間、サンタテレサ警察は新たに、郊外の空き地に半ば埋められた十代の女性の遺体を発見した」と読み上げた。遊ちゃんが笑った。僕は続けた。
西から吹いてくる強い風が、東の山裾に当たって砕け、サンタテレサを吹き抜ける途中、土埃を、道端に捨てられた新聞紙や破れた段ボールを巻き上げ、ロサが裏庭に干した服を揺らした。その風、その若くて精力的であまりに命の短い風は、まるでアマルフィターノのシャツやズボンを試着し、娘のショーツのなかに入り込み、『幾何学的遺言』を数ページめくって、何か役に立つことは書かれていないかと、自分が駆け足で通り過ぎていく通りや家並みが作る実に奇妙な風景について説明が書かれていないかと、風としての自分の存在について語られていないかと目を通すかのようだった。
ロベルト・ボラーニョ『2666』(野谷文昭、内田兆史、久野量一訳、白水社)p.204
期せずしていいところに当たったというか、読んだあと、そういえばここは昨日もう読んだなと思い出したのだが、でもこんなに風のことが描写されていたことは頭に残っていなくて、適当に読んでいたことが知れた、だから音読という機会を得て改めてちゃんと読めてよかった。
3月8日(金)
下北沢に着くと大河内さんがいて佐藤くんがいてコーヒーを淹れると月例会。終えるとたっぷり注文が入っていた『デリケート』の梱包発送作業に参加して、開店前までにどうにか終える。雨は上がって晴れ間がのぞいていて、スマートレターを抱えて郵便ポストまで歩いた。横の公園に、どうしてなのか、一瞬、アルチンボルディがいるように感じた。
3月9日(土)
そもそも笑顔であり続けるということから僕にはできない芸当で、笑顔でい続けなければいけない場面が僕は怖い。この怖さはいつから僕の中に巣食っているのだろう。ずうっとある。無理につくった笑みがどんどん引きつっていくことへの恐れみたいなもの。笑顔なのか泣き顔なのかわからなくなるあの感じへの恐れ。アマルフィターノにこの話をしたらすんなり通じる気がする。そう思いながら布団に入るとサンタテレサで陰々と暮らすアマルフィターノがいて、マキラドーラを爆破したいとゲーラ。マキラドーラという言葉も懐かしい。海外に輸出する製品の組立工場とかだったか。かつて『2666』を読んだときは読む前にメキシコの歴史の本を2冊読んで、そのときに学んだ。ゲーラは「詩だけが健全な糧であって、腐ってはいない」と言う。
3月10日(日)
諦めて予熱し、そして焼き、焼き上がるまでは仕事をして、始まりを逃さないようにSPOTV NOWの映像は流していて音もオンにしていた。中継が始まるとすぐに見始めて、選手が並び、ピッチに登場して、というこの時間からちゃんと見るのはめったにないことだった。すごく、すごく楽しみ。ちょっと緊張すらしている感じがしてウケて、アンフィールドの観客たちは「YOU'LL NEVER WALK ALONE」と書かれたタオルを掲げてその曲を合唱する。その野太い音の圧力がすごい。重い、凄まじい音がスタジアムに響き渡る。