抜粋
1月8日(月)
昼前に起きて七草粥。遊ちゃんがおかゆをセットしてくれた。七草も昨日買ってくれていてすでに湯がいてあり、その量の見て、もう少しあってもよさそうだよねとなったのでスーパーに行く。すると七草は今日はもう売っていなくてセリがあったのでセリを買い、あとハーシーズのチョコドーナツが目に入ったので買った。
セリを湯がき、鮭を焼き、生姜と紫蘇の実のたまり漬けを用意し、おかゆの炊飯は思ったよりも時間が掛かって去年は鍋でつくった。1時間くらいで炊き上がってジャーを開けるとたっぷりの量のおかゆができている。2合で、これは七草のパッケージの裏面にあった量で炊いたのだがよく見ると5人前とあって笑った。
1月9日(火)
家を出ると電車に乗って六本木に向かう。大江戸線はいつ乗っても狭い。行き先はアスミックエースの試写室で地図を見たときに文喫とかの並びのようだと思っていたら駅直結のビルだった。最前列に座って時間までおとなしく待ち、三宅唱監督の新作『夜明けのすべて』が始まった。バスターミナルに雨が強く振って服が濡れた。ベンチに静かに倒れると黒い髪が下に垂れた。警察署の場面とかを経ての夜の車のフロントガラスに乗る雨粒がゆっくり明滅する様を見たらじんわりと涙が浮かぶ感じがあってなんでこれだけで感動するのかと思うが感動する。だから感動して、見始めて、映画が終わりを迎えて、終わりの気配とともにもう一度強烈な感動が湧き上がってぐしょぐしょに鼻水があふれて場内が明るくなるとリュックに手を入れてティッシュを取って鼻をかんだ。ぼろぼろ泣きながらネックウォーマーで顔を隠しながら配給会社の人たちなのであろうロビーの人たちに会釈をしながら出、外に出ると六本木だった。
1月10日(水)
目を覚ますと『夜明けのすべて』のいくつかの場面が脳裏に浮かんだ、家を出て歩いていても駅に着いてもずっと彼らがいて、僕はそのたびに涙ぐむ。僕は三宅唱という人と同時代に生きていることを本当に幸せに思うな。本当に気持ちのいい、優しい人で、その優しさが映画の隅々まで行き渡っている。どの人のことを思い出しても愛おしい気持ちになって、そしてまた涙ぐむ。僕は山添くんが同僚を招いたことにとにかく感動する。自転車に乗って浴びる光。下る坂。歩道橋で話す過去。そこから見上げる星。ポテトチップスを流し込む。お守りのおすそわけ。あなたみたいな人が近くにいてくれて安心しました。私はここで働けて幸せでした。最初はお菓子を分け合う感じとかが苦手でした。元上司の優しい眼差し。歯を磨く夜更けの都会のオフィス。棚に並ぶヨット大会のトロフィー。エアロバイクに乗って張る虚勢。撮り直し。2分30秒の編集のやり直し。ペンで叩くキーボード。思い出すたびに、震えるような泣きそうな感じになる。
1月11日(木)
初台、シオール。甘いものを食べたい気持ちも生じたがやめた。給与計算。年末調整の続き。みんなに出してもらった情報を反映させたのは数日前で、今日は給与確定後に還付額を反映。計算とかはなくぽちぽち押していくだけだが。これであとは源泉徴収票をみんなに出すとかで終わりなのかと思っていたがそうでもなさそうな雰囲気を感じ始め、年末調整というものの全体像が見えていない、理解できていないことによってとても億劫に感じている。
1月12日(金)
食べ終え、うつらうつらする遊ちゃんの後ろについて寝室に行って『続きと始まり』。
あまりにも違う複数の世界が常に目の前にあった/自分の体や気持ちをばらばらにしていく感じがする
なにかが起きていて、自分はそれを知らなくて、その知らなかった間の時間ってなんなんだろう
まず、自分の話するね
わたしの経験が別のことに書き換えられていく
うわっと思うとページを折るわけだが今晩はほとんどすべてのページを折りながら読んでいた。「まず、自分の話するね」という発話に僕が感じるこの感覚はどういうものなのだろう。「わたしの話をしてもいい?」というのも前にあった。自分の話をすることを宣言すること。ここにこそ他者との共生のための鍵があるように感じるこの感じ。これによってこそコミュニケーションの可能性が開けるように感じるこの感じ。収奪のなさ? どうしてなのかまったくわからないまま、救われると感じ、目に涙がにじむのを感じる。それで寝る。
1月13日(土)
時間になり出、二名ビルに行くと階段の縁が青く塗られていた。進んでしまった。間に合わなかった。一昨日くらいに大家さんに「今から色どうにかできないか新大家さんに聞いてもらえませんか?」とダメ元で言ったのだが、ダメだった模様。このビルの階段は青くなる。あーあと思いながら屋上に。まだ少しだけ雪で、舞ってきた雪片がメガネに着地した。寒い。こんな寒い日は、と思って店に行って伝票を見るとこんな寒い日だからなのかはわからないが暇な土曜日になっていた。
1月14日(日)
店の時間になって戸塚さんが来てそして開店で、今日も寒いらしいし暇なんじゃないかという予測もあったがいいテンポでお客さんがあっていい感じで働く。てんやわんやになる瞬間は一度もないまま、だから淡々と、しかし高めの強度で働くという時間が戸塚さんのいるあいだずうっと続いて楽しかった。座ることなく働き続け、夜はなんもやらんぞ、夜までに全部済ますぞという気持ちで仕込みもどんどんして、だからものすごく働いた、やっと座ったというところで戸塚さん酒井さんがバトンタッチして夜の部が始まり、ここからしっかり伸びたら最高の日曜と思ったが夜は完全にまったりした夜になってまったりといた。僕は完全に疲れてあたたかな眠気の中に入った。