抜粋
10月23日(月)
ボーナストラックに着くとブースを借りて『読書の日記』のタイトル会議、久木さんと内沼さんと。参加するまで気持ちが疲れていたが、話していると何度も三人であっはっはと笑って気持ちが楽しくなっていった。ブースから出ると外が暗くなりつつあって午後から顔がピリピリしていた。いや起きたときから、ちょっと目の周りがおかしい感じがした。昨日のフェイスマスクが合わなかったのかもしれない。口の周りもカピカピして痛い。それを遊ちゃんに言うと今日はこれを試してみるといいよと言われ、でも自分が怯んでいるのを感じる。これだったら何もしないほうがいいのではないかというような。美容の道は険しい。
10月24日(火)
遊ちゃんがコンビニに行くというので一緒に出て歩きながら化粧水とかの話をしていたらふたりで大笑いした。僕が悪い冗談を言って遊ちゃんが僕を叩いてふたりで大笑いみたいなそういう笑い。朝から楽しかった。電車に乗ると沖縄でポケモンセンター。
興奮で自我が保てなくなった二人はそれぞれにわたしの腕を逆方向に引き合った。次男は大声でメザスタメザスタと泣き叫んでいた。わたしは昔話を思い出していた。実母と継母が一人の子どもを奪い合い両腕を引っ張り合うのだが、子の痛がる様子を見てつい実母は手を離してしまうという話。わたしの子どもたちは紛れもないわたしの子どもであり、わたしはその母であるが、少しの手加減もされないまま右へ左へと力一杯引っ張っている。わたしが手を振り解けばどちらかは尻餅を着いて倒れるだろう。三人で組体操のようになっていると、笑顔を顔に貼りつけた男性店員が近づいてきた。ここの店員は皆、ラボの研究員といった風の制服を着ている。わたしには目もくれず、君たちは何が欲しいのかな? と詐欺師のような甘い声で言う。噛みつかんばかりの大声で子どもたちが口々に答えると、すかさずポケモンキャラクターがたくさん描かれたチラシを渡してくる。カードはここ、メザスタはこうすればできるよ、と誘い出される。子どもたちはふらふらと夢遊病のように着いていく、私も着いていく。ハーメルンの笛吹きのようだ。
図Yカニナ『沖縄に六日間』p.42,43
10月25日(水)
7時、店、誰もいない。伝票を見るとここまでは忙しい感じの日で、ちょっと前にさーっと潮が引くようにお客さんがいなくなったそうだ。しばらく映画館の話とか京都の話とかフランスの話とかをすると榮山さんは上がり、僕は煮込み終えたジンジャーシロップにライムをぎゅーっと絞って完成させた。
それからポチポチと働きを続けて眠くなっていく。誰も来ない。外からパチパチパチという音が聞こえてゲリラ豪雨のようだ。真夏でもないのにあるものだな、と思って、その音がだいぶ続いた。気になって窓の外を見ると地面は乾いていて、雨なんて降っていなかった。
10月26日(木)
あらためて見ると紙カップの蓋がきちんと閉められていなかったことに気づく。すみません、でもわたしだけのせいじゃなくて、カップの蓋が開いてて、でも店主のご好意でもらったものですよね、カーペットが汚れてしまいました、オープンしたての、こんな素敵な本屋さんのカーペットが、でもわたしのストールも、こんなに汚れてしまった。
図Yカニナ『沖縄に六日間』 p.83
通勤の電車の中で目にじわーっと涙が浮かんでくるのを感じて目のまわりが熱かった。そのあたりで電車が初台に着いて外に上がるとパン屋さんに向かい、よく晴れていて日はじりじりと照りつけるが体の横を吹き抜けるのは冷えた空気で、感覚がまだらになった。
10月27日(金)
帰りも新宿三丁目から電車に乗って、新宿三丁目を使うと新宿から乗るよりも150円くらい運賃が高くなる、新宿三丁目から新宿の区間が都営新宿線で、そこでそういう値段の上がりがあるが、金曜の夜で体がへろへろで、新宿駅の人混みに入ることを考えたら考えるだけで疲れるから、これでよかった。それで調布に戻る電車は新宿で空いたりするかと期待したが混み合ったままなのでフアン・ホセ・サエールの『グロサ』を開いて読み始めた。
10月28日(土)
それからご飯を5合炊き、鍋をこしらえ始めて白だしとにんにくと砂糖だけでつくるおいしい鍋、みたいなツイートを見かけてそれを今日はやる。水600ミリと白だし大さじ3とか、砂糖は小さじ1とか、そこにすりおろしにんにく、それで煮立ったところに白菜をやってしばらく置いて、11時になるのでサッカーをつけて今日はアーセナルとシェフィールド・ユナイテッドの一戦です。
10月29日(日)
今日はどの店舗もしょんぼりな売上で、そういえばフヅクエは9月が決算月で、税理士さんから届いた決算案というのを見たら大きな大きな赤字だった。よく続いているな、と思うような金額。しかし、決算って、なんだか去年も今年も特にやることがない感じで、前にボーナストラックの誰かと話しているときに「今月は決算なんで」みたいな感じで気合いを入れるというか、やることたくさんあるぞ〜みたいな口ぶりで話しているのを聞いたけれど、僕の今のところの実感は何ひとつやることがないというところで、これは赤字と黒字の違いなんだろうか。黒字の会社の決算月は多忙なのだろうか。布団に入りちょっとだけ『グロサ』。