読書の日記(10/2-8)

2023.10.13
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抜粋

10月2日(月) 

午後、お昼ご飯を食べていたら遊ちゃんが居間に来て僕はお腹が痛くなってきた。遊ちゃんに向けて脚を広げて、「うんちぶーって出そう」と言った。トイレに行くことにした。時を同じくして遊ちゃんが打ち合わせの時間だと言ったので「うんち合わせ?」と僕は言った。

10月3日(火) 

帰り、今日は餃子を食べようと思う。そういえばさっきのやり取りの中で「スクリプトがNotionのデータベースとどのように対話するかによりますが」という言葉があってスクリプトはデータベースと対話をする。なすをレンジで柔らかくしてめんつゆと生姜で和えてメルマガに新規登録があったらタスク化というスクリプトをつくってそのあと餃子を焼いてマンチェスター・ユナイテッドとクリスタル・パレスの試合を見ながら食べてオールド・トラッフォードには冷たい雨が降っていた。クリスタル・パレスの老齢の監督が雨に濡れて風邪を引かないか心配になりながら見てラッシュフォードは今年は不調で去年は30もゴールを決めた。

10月4日(水) 

ひとつだったものがみっつになって、初台だけだったら20人とか30人とかがいいところだったのが、60人とか70人とかが一日でフヅクエに来てくれたりするようになった。ではそれで喜びが3倍になるかといったらそうはならなくて、数は安心の材料にはなりこそすれど、喜びにはならないらしい。僕の根源的な喜びは、目の前のお客さんがいい時間を過ごしていってくれたと思えるときに生じるもので、数が増えることではどうやら生じない。である以上、その数が増えないことで後悔とかをするかというと、きっとしない。もちろんいろいろな後悔はあるかもしれないけれど、その後悔は僕の根源的な喜びとはまた別の場所で起こる後悔で、僕の喜び自体はたぶん数では左右されない。来てくれた誰か一人を満足させるという点では、もうかなり納得のいくものがつくりあげられたという気持ちがあるのかもしれない。こうやって考えてみても、僕は事業家じゃなくて作家なんだなと思う。誰かひとりに強烈に届いたと感じられることが強烈に幸せ。フヅクエがいろいろな場所にできた世界を見てみたいという気持ちは、きっと誰よりも強いと思うけれど、でもそれを実現できなかったら、自分は何も成し遂げられなかった、みたいにはどうやら僕は感じないようだ。ひとつ、とても強固なものはもうつくりあげた。

10月5日(木) 

帰ると働いた。寝る前は『黄色い家』を読んだ。「真夏の、ほとんど光が入ってこない青く湿った部屋であおむけになっていると、いろんなことを思い出したり考えたりした」。
でもどれも、たいしたことではなかった。わたしには思いだすべき思い出なんてとくになかったし、考えなければならないことはあったかもしれないけれど、その方法もわからなかった。だからそれは、なにかを思いだすとか考えるとかいうのではなかったのかもしれない。それでもこんなふうに、眠るでもなく、ただじっと動かずに目だけをあけていると、そこにいろんなイメージがやってきた。 川上未映子『黄色い家』(中央公論新社)p.69
思いだすでも考えるでもなく、やってくる、というこの感じは、ああなるほどやってくるだなあ、と思って、そうだなあ、と思ってから寝た。

10月6日(金) 

暇で、すぐに給与明細作成業務の効率化に着手してしまう。すぐこうなる。抑えられない。誰も俺を止められない。それにしても暇で、10月に入ってから明らかに暇で、恐れを感じている。

10月7日(土) 

だからスーパーでなすと豚肉と舞茸を買って数日前につくったなすとアスパラと豚肉と椎茸の炒めものがおいしかったからまたあれをつくろうという買い物だったがコンビニでビールとポテチと柿の種とかを買って、飯食うか、ポテチ食いながら読書する夜にするか、決めかねながら帰り、帰ってしばらくしてどちらにするか決めて後者になった。ポテチを広げて柿ピーとカシューナッツを器に入れて混ぜてビールを開けて黄色い表紙の本を開いて貪った。どんどん読んだ。ぐんぐん小説の中に巻き込まれていくような感覚があった。これは、とても久しぶりのことだった。

10月8日(日) 

日中にツイッターを見ていたらいろいろ思い悩むときは今自分が見ているものを頭の中でみっつ描写し、今聞こえているものをまたみっつ描写し、今感じていることをまたみっつ描写する、それを何度か繰り返すと今に接続されて落ち着くよ、みたいなものがあって屋上で休憩をしながらそれをやった。スマホの煌々と光る画面、先端が赤く燃えている煙草、屋上の水色の床。車の音、あとは……高速を走る車の音、音はそれ以外聞こえない、みっつにならない。感じていることは、煙を吸い込む喉の満たされるような感じ、椅子に座る尻の固さ、向かいの椅子の端に乗せている足の裏の、固い線を踏んでいる感覚、組んだ脚の膝裏と膝の重なり、指に挟まる煙草の柔らかみ。
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