抜粋
4月24日(月)
お腹が減ってめまいがしそうだった、途中までは体が疲れでいっぱいで立っていられないような感じがあった、それは9時くらいで消えて夜になればなるほど元気になっていく人間だった。閉店まで真面目に働くと定食をバクバク食べて帰った。終電ひとつ手前の各駅停車に乗れたので、すぐに座れたので、パソコンが開かれた、仕事をした。ちょっとよくないなと思う。不幸になりそうだ。
4月25日(火)
昨日はずいぶん夜ふかししてしまって3時前だった、なのに8時半とかに起きた、「早く移動しておけば時間が有効に使えそう」と昨日いいことを思いついたみたいな感じで思いついてしまったためだった、不幸になりそうだよこれ。
4月26日(水)
起きてカレンダーを見たらまだ起きなくてもいいそうなのでダラダラ寝、今日は夜番ということは12時までは働くからここは休んでおいていいだろうという判断。気持ちが弱くなっていると感じる。このタスクを時間割にするのはけっこうやめたほうがいいかもしれない。けっこう追い立てられる感じがする。仕事をしたくない、だから起きたくない、みたいな感じもどこかにあった。
4月27日(木)
5時半まで働いて電車。帰りも各駅停車を選べば各駅停車だから座れるからパソコンが開けるから仕事ができるから不幸になっていく。銭湯行く。今日はやたら静かでよかった。気持ちが塞がっていく。コンビニで冷凍の餃子を買って帰る。これは予備で今日は日曜日の海老の餃子の残りを冷凍していたのでそれをまた水餃子にするやつと焼きブロッコリーのスープが晩ごはんであとは白菜と新玉ねぎをクタクタに煮るみたいなやつを加えよう、だけどもし餃子が足りなかったら、というときのために冷凍餃子を買ってきたわけでまずはビールを飲んだ。遊ちゃんが最近落ち込んでいる感じがあって心配だ、優くんも元気がなかったし僕も元気がない日々だ、今はみんな元気がないのかもしれない。けっきょく冷凍餃子も食べた。折返しのつもりだったが夜は全然働けなかった。
4月28日(金)
豚キムチをつくって食った。キャベツと新玉ねぎと豚肉としめじとキムチ。大変おいしかった。食後はダラダラし、布団に入ったのは2時半くらいだったか、明日は夜番なので夜ふかししたうえで寝まくろうと思っていたからだったが、布団に入って念の為にカレンダーを見たら昼番だった。驚いて声が出た。それでベルンハルト。夫アウアースベルガーは破壊的に酩酊している。でもたまに「まだ何か言える状態になり、それどころか完全な文章がうまく口から出てくることもあった」。さて夫アウアースベルガーの口から出てくる言葉はどんなものでしょうか。
たとえば人類は絶滅されるにふさわしいといった言葉、これによって彼はいま楽の間に集う一同の注意を何回も引いたが、これを彼はいつも音楽家の精確な数学的リズムでくり返した。あるいは社交の集まりなど廃止されるにふさわしいといった言葉、あるいはわれわれはみな殺し合わなくてはならないといった言葉。
トーマス・ベルンハルト『樵る 激情』(初見基訳、河出書房新社)p.201
夫アウアースベルガーこそがいちばん絶望していると感じさせるフレーズ群で、なんというか、憐れみを誘うというか、夫アウアースベルガーを好きになる。酩酊しながら「人類は絶滅されるにふさわしい」と言う人を好きにならないでいられる人なんてどこにいるだろう。
4月29日(土)
夜、帰り、電車では『インターネットは言葉をどう変えたか』を読んでおもしろい。若者がネット上で使う言葉は必ずしも略語まみれのラフなものとも言えなくて「must」とか「shall」とか普通はこのトーンでは使わない言葉がけっこう使われていたりする、つまりただ簡単になるのではなくてインターネット独特の書き言葉というものが生成されている、ということだそうでスーパーの横の壁でかたまりになって座っている男女がいた、女がぐったりしていた、その隣に吐瀉物が広がっていた、男の顔はスマホの明かりで照らされていた。スーパーでビールとプリン、それからサーモンの刺し身を買った。先週末のおさかなパーティーで魚介類を家で食べることに味をしめたのだろうか。なめろうとかを食べたい気分だった。
4月30日(日)
読書三昧の日曜日にすることにした。問題は何を読むのかだ、ベルンハルトが順当なわけだがこのウキウキした催しにベルンハルトなのか? みたいな問題はあって男が一晩中ブツブツ不満を述べ続けている小説がこの夜にふさわしいのだろうか? 僕はいま読み始めたいのかもしれない。でもそのための本はない。あるいは漫画を読みたいような気もする。途中で止めている『違国日記』を読みたい気もしたがそれは遊ちゃんのiPadに入っていて、iPadとかよりも紙をめくりたい。すぐに布団に戻った遊ちゃんの枕元には遊ちゃんが最近読んでいた『「美味しい」とは何か』という本があってこれがすこぶる面白かったらしい。これかもしれないと思って借りてリビングに戻り、でもベルンハルトも一緒に持っていき、ピザの蓋を開け、ポテチの袋を開け、チーズを数個横に置き、スパークリングワインを開け、それで手に取ったのはベルンハルトだった。