読書の日記(9/19-25)

2022.09.30
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『正反対な君と僕』、暇な祝日、『コーチングのすべて』/オールナイトニッポン、URBAN GUITAR SAYONARA、urban climbing death/ストレンジャー、ゴダール、映画館の人=カフェの人/『フォーエヴァー・モーツアルト』、ぷりゅぷりゅ、歌舞伎町/ほころび、指摘、レクチャー/Confusion Is Sex、珈琲館、『水平線』/「本の読める日」書店めぐり、『ジョナス・メカス論集』、『正反対な君と僕』、『イリノイ遠景近景』、『言語が消滅する前に』、『どうして男はそうなんだろうか会議』/下北沢がっつり3日間、テレビ朝日の取材、与沢翼/渋谷スカイ、ラリユー兄弟、『トラララ』/テイクアウトのオペレーション磨き/

抜粋

9月19日(月) 

6時半くらいに目が覚めてしまって遊ちゃんはもっと早く起きたみたいだ、毛布を持って部屋を出ていったのをうっすら感知していた。まだまだ眠りたいが眠れそうな気配がなくてスマホを見ていたら『正反対な君と僕』の最新話が公開されたことを知ったので読んだ。毎回神回。登場する人全員が本当にいいやつばかりというか人のいい面をすくい取ろうとする作者の前向きな意思を感じるし若い世代に下手に目線を合わせるのではなくて年長の者として彼らの素敵な面をちゃんと見届けようとする、そんな姿勢を感じる。べったり一枚に重なるのではなくて距離を保って優しく眼差す、そういう印象。とにかく素敵。そうやって1時間くらいダラダラしていて今日は早く出たかったからちょうどよかったかもしれない。出、雨は今はまばらだ、初台に着くとiPodのシャッフル再生にしてこのiPodはいつまで使えるのだろう、大きな音で音楽を流しながらまずはチーズケーキを焼く、そして昨日の洗い物だ。たっぷり溜まった洗い物を全部片付けるのには30分掛かってやはりけっこうな量だった。

9月20日(火) 

フヅクエが、そこで働いている人たちが読書をする人たちに親近感を覚える、その時間、マジ応援するよと思える、そう思っている人たちで構成されているから感じられる安心感みたいなものはきっと提供できていると思うのだけど、それに似ている感じがある。併設のカフェの人たちが、映画と無関係じゃない人たちである、映画に無関心じゃない人たちである、見たい映画を見に映画館に行く喜びを知っている人たちである、と感じられる、そのことによるあたたかさ。映画館でこういう感じを感じたのは初めてのことかもしれない。
だからそれで『フォーエヴァー・モーツアルト』を見てやっぱりめちゃくちゃかっこよかった。そして『JLG/自画像』よりずっとバキバキに面白がっているのにぐんぐん眠くなって困った。かなり眠気と闘った。終わる直前、封切りの映画館の前、「この映画はおっぱい出てくる?」みたいなことを話してくる少年たちに向かって女がブチ切れて「おっぱいも出ないし、タマタマも出ない、失せろクソガキ」みたいなことを言う、そのときに多分「タマタマ」のところで「ぷりゅぷりゅ」と聞こえてきて僕は耳を疑う。

9月21日(水) 

もし無条件で敷地と建物が戻ってくるなら、と和美は民宿を再建する算段を一瞬してみたりしたが、自分ひとりの手には負えないのは明らかだった。資金も人手も元気もない。それで漁師もやめたのだ。だからもちろんすぐに諦めはしたが、そもそももとの持ち主の家族だからって簡単に権利が取り戻せるわけもなく、役場の知り合いも本気でそんなことを言っていたわけでもあるまいに、一瞬でもその可能性を想像しようとした自分に和美は少し驚いた。頭がどうかしたのだろうか。繁忙期には多少手伝いをしたり、獲った魚を納めてはいたけれど、イクの両親が営むその宿に自分はそこまでの思い入れがあるわけではないと思っていた。志津がなくなってそこを手放したときのイクの無念さがずっと引っかかっていたのかもしれない、みたいなことを和美は思い、けれどもその考えに至っても腑に落ちる感じはしなかった。あのとき、民宿を手放さずにイクとふたりでどうにか切り盛りしてみる将来をもっと真剣に考えていれば、全然違ういまがあったのだろうか、と頭では思ってみても、それが自分の心残りだったというふうには思えなくて、それなのに何年も経ってこうして頭に浮かんでくる過去の可能性というのを、いったいどんなふうに考えればいいのか。やっぱりちょっとおかしいんだろうか。 滝口悠生『水平線』(新潮社)p.244,245
読んでいるときもすごい文章だしすごい実感あるいは非実感というか実感の仮構とすり抜けというかだからすごい思考の流れだと思ったからこそページを折って写真を撮ってこうやって引き写しているわけだけど、いざ自分の手を経由させてみるとこの文章はいよいよものすごい気がしてきた。なにが悲しいのかわからないけれど読んでいてひたすら悲しいし、そしてこの悲しみは生きることを祝福することとも密接に関わる悲しみのような気がする、この悲しみが祝福そのものであるような気もする。
だから深いため息をつきながら読んですごい。もう折返しを過ぎていることを感じていよいよ他の本を読みたいという気持ちが高まる。まだまだこの本を終わらせたくない。

9月22日(木) 

帰り、リビング、『正反対な君と僕』を手に取ると立ったまま読み始めて、遊ちゃんが何か話しかけてきたので「ちょっと待って」と手で制すると読み進めた、それで鈴木が「谷くんのことが好きなの、片思いしてんの」という場面まで読んでそこで顔を上げるとハラハラと涙を流して、本当にこの場面が好きで……と言いながら遊ちゃんにピンク色のその漫画を渡した。それで玉ねぎとえのきをクタクタに炒めた豚の生姜焼きとキャベツとピーマンのごま油のコールスローみたいなものをこしらえるとそれで晩ごはんとし、お腹いっぱい。
10時4分になるとZoomに入って華南子ちゃんのNotionケア。Notionのことを話しているうちにしょんぼりした気持ちは薄くなっていく感覚があってNotionはすごい。Notionの国に住みたい。Notion Nationだ。そこでリレーションしたりリンクしたりしながら、風景ビューを共同構築しながら、二人で見方ビューを話し合うのだ。

9月23日(金) 

明日の取材はテレビ朝日の「グッド」がついて「モーニング」がつく印象の、だからきっと「グッドモーニング」的な番組の、その天気予報コーナーらしく、みたいな話をしたら遊ちゃんが「与田翼?」と言ってきてその名を聞いた僕の脳裏に浮かんでいるのは与沢翼の姿で、まったく文脈がわからない、なんでいま遊ちゃんの口から秒速で1億円を稼ぐ与田翼の名が出てきたんだろう、今あの人は朝の情報番組とかに出ているのか? となって混乱しながらシャワーを浴びに行った。
それで幾分すっきりすると机について今日の仕事を終わらせ、それから『正反対な君と僕』の続きをつい読んでしまう。すでに読んでいるわけだけど、丹念に読む、紙で読むと小さな画面で読むよりも細部にしっかり目が行く感じになってやっぱりこれがいい。それにしても本当に登場人物全員がいい。全員がよりよく生きようと努めている。誰もつまらない諦念にとらわれていない。読んでいるとずっとうれしい。

9月24日(土) 

弟がギターを持った、パトリックがマイクを持った、人々が影になった、紫色の光の中で影がゆっくりと前に動く、それは僕はダニエル・シュミットの『今宵かぎりは…』を思い出してその影のあいだをパトリックと女が駆けていく。と思ったら壁にホテルの階段が投影され、ふたりは真っ黒の輪郭になる、そして、まさかまさか、階段を、駆け上がる! っていうところがちょっとヤバすぎてビショビショになりながら嗚咽。もうめちゃくちゃいい……幸せすぎる……本当に最高……マチュー・アマルリックはなんでこんなに僕の胸を打つのだろうと思うとやはり彼の演技が見せる弱いような強いような謙虚なような傲慢なようなひたすら揺らぐその揺らぎなのかもしれないしそれはジャン・ピエール・レオーも僕にとっては同じだ。不安定な像が僕を打つ。彼らの笑顔を見ると本当に幸せな気持ちになる。マチュー以外も全員最高で弟も昔の恋人もお母さんもドニ・ラヴァンもみんな素晴らしすぎる。本当に幸せ……

9月25日(日) 

朝が辛い。店に行くとOMSBのアルバムを大きな音で流しながらせっせと準備。今日は晴れたし今日忙しくなってくれなかったらいつ忙しくなってくれるんだという日だったのでしっかりと備える。初めて通して聞いたOMSBのアルバムはすごくよかった。Spotifyで流していたらそれが終わると勝手に何かが再生されていい曲だった、伸びやかな歌声、素敵なメロディ、なんかよさそうな歌詞、誰だろうと思ったら柴田聡子だった。カープファンのあの子は元気だろうか。シャッフルは楽しいものでかっこいい音楽がたくさんあるものだなあと新鮮でいい。チーズケーキを焼いてポテトサラダをこしらえて朝食はコンビニで買ったパンでこれもまたおいしい。いろいろ済むと12時になるところで店を開け、すぐにお客さんも来られるしテイクアウトもあるしいい始まりだ、1時間乗り切ると佐藤くんが来たのでもう安心だ。今日はせっかくなのでふたりでの連携をいろいろ試行錯誤してみることにしてフォーメーションと役割を決めてみる。できるだけ場を動かない、背中を通ったりしない、そのためにはお互い何をやっているのかを把握しながらそれぞれがパーツを担うようなそういう意識が必要で、これがなかなか楽しいしけっこううまくやれる。途中途中で外に出て動きの検証をしながら洗練させていく。こういう作業はすごく楽しい。お客さんは途切れずにあって慌ただしくなることもあるが破綻することはなくずうっとこなすことができて気持ちいい。ものすごい速さでドリンクを提供することができてウケる。
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