読書の日記(8/15-21)

2022.08.26
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錯乱の壁打ち、散在する問題の場/西荻窪大作戦/溝口健二『赤線地帯』/役割分担明確化/珈琲館の主、オペレーション、アクティビティ/毎日「ゆる言語学ラジオ」、初めてラジオリスナーになる/プルースト、他人の死が自分にはなんだかひどく決定的で通俗的な事故のようなものに思われる/チューニングポール、僕がネタ、あなたがシャリ/ポスティング、私は佐藤/『ロジカル・ライティング』、『群像』、ドン・シーゲル『殺し屋ネルソン』/「本の読める日」の誕生/芦花公園、祖師ヶ谷大蔵、ノストスブックス/『文にあたる』、「すべての文字に同じだけの時間をかけて見る」/

抜粋

8月15日(月) 

2週間後、西荻窪がどういう状態にあるのを目指すのか、短めにマイルストーンを置くと考えやすいと大地が教えてくれたそれに則ってそれを考え、そうやって区切って考えてみるとたしかに考えを具体化しやすく、そして具体化されていくとパニックがおさまっていくのを実感していく。「無限の反省から抜け出し、個別の問題に有限に取り組むことである」と千葉雅也は書いていた、「世界は謎の塊ではない。散在する問題の場である」。謎の塊だと捉えてしまうと何にも手をつけようがない感じになるが散在する問題の場だと捉え直せたら、ひとつひとつタスクを潰していくだけだ。だいぶ落ち着きを取り戻し、ちょうど明日が西荻窪でいろいろ潰そうの日だったので明日ふたりに共有するものをがっつり作り込んでいく。8月中にどこまでのことをやれるようになってほしいのか、それができるようになるとどういういいことがあるのか、ひとつひとつ書いていった。途中から腕や肩がバキバキに重くてしきりに椅子に手を置いて突っ張って反らせて伸ばすがほとんど効果はなく、今すぐ指圧を受けたい感じ。しかし珈琲館には施術できる人もベッドもないので仕方なく、苦しみながら、一生懸命考える。10時になり、今日は本当はもうひとつ考えたいことがあったけれどそこまでは手が回らず帰宅。白菜と豚肉と冷凍うどんを買って。

8月16日(火) 

店に着いて数段の階段を下りていくと中に山口くんがいて西荻窪で山口くんを見るのは初めてで新鮮。今日もそこそこいい平日だったようでお盆なんだろうけれどうれしい。敷野くんもやってきて今日は西荻窪どうやっていろいろやっていこうか大作戦の日で、当初は具体的に課題を潰しまくる日としてやろうと言っていたが、それでもよかったけれど、もう少し長い目で見たときにふたりがそういう問題解決を自走できるように仕立てることのほうが大切だと思い、そういうレクチャーと実践練習の日ということになった。用意したレジュメをもとにまず話し、それからこれまで上がっていた課題のリストを使って実践編をやっていった。最初は僕がやり方をやって見せ、それからふたりにやってもらう、それを僕は教官のような感じで後ろをうろうろしながら見、画面を指差して「ここ」とか言う。「それは事実ではなくて分析だよね」とか言う。「すでに通り過ぎているはずなんだ、あまりにも自明だからとスルーしちゃっているところ、そこに事実がある、このスルーにはきっと思考の癖がある、事実を言おうとするときにすでに主観を入れて一段進めちゃうそういう癖、その前にぐっと一度とどまること」とか言う。なんというかすごく楽しかった。楽しかったし、ふたりがこれを自力でやっていく姿がちゃんと想像できて明るい気持ちにもなった。

8月17日(水) 

いくらか後悔しながら布団に入ってプルースト。
やりきれない事態を避けるために、ヴェルデュラン氏がとりつくろっていた体裁は、信者たちの死は彼の妻の神経に非常な障害を来たすので、彼女の健康を慮って、それにはふれないようにする、ということなのであった。それにまた、そして他人の死が自分にはなんだかひどく決定的で通俗的な事故のようなものに思われるというまさにその理由で、ヴェルデュラン氏は、自分自身の死を考えることさえいやな気がしていたのであり、すこしでもそれに関係しそうな内省はすべてさしひかえることにしているのであった。 マルセル・プルースト『失われた時を求めて〈7 第4篇〉ソドムとゴモラ 2』(井上究一郎訳、筑摩書房)p.82
他人の死が自分にはなんだかひどく決定的で通俗的な事故のようなものに思われる。自分自身の死を考えることさえいやな気がする。内省はすべてさしひかえることにしている。なんだかとてもいい。

8月18日(木) 

外を見ると道行く人は傘をさしていなかったので雨はやんだことが知れてそれで出る。各停の電車に乗って仕事をしながらゆっくり向かい、着くと箱そばでチル。それからボーナストラックに向かい、急に立ち止まったりよたよたと頭のバランスが悪そうな走り方で走ったりするちびっことお母さんがいて先を歩くお母さんが「ほら、ここだよ」と言ってアイスクリーム屋さんのことを紹介していた。買って食べるのかと思ったらそうじゃなかったので本当に紹介で、ちびっこは「そうかあ、ここがアイスクリーム屋さんかあ」と思い、そしていつか思い出すのだろうか。アイスを食べたくなった。

8月19日(金) 

で、帰るとお腹も空いている、ご飯を炊く。今日は白菜と玉ねぎと豚肉と椎茸を塩とにんにくで炒めてタコパのときのチーズを乗っけてみたいなそういう食べ物をつくるつもりだったが冷蔵庫を見たら白菜はなくキャベツがあったのでキャベツでつくることにした、残ったキャベツは生姜と一緒に塩もみをして白だしで和えて浅漬のような和え物のようなものにすることにし、途中まで調理をしていると遊ちゃんが風呂から上がってきて何か音が聞こえると思っていたが今日は風呂で小津安二郎の『麦秋』を見ていたそうだ。遊ちゃんは先日『文學界』の『ジョン・フォード論』の座談会を読んでとてもおもしろかった。そういえばジョン・フォードの特集上映は今日までで結局行けなかった。また9月か10月にやるようなので今度こそは行きたい。と思っているのだが今度こそは行けるのだろうか。アマプラで映画を見るようになって自分が好きなタイミングでその場で決めた映画を好きなところまで見るというこの体験の気楽さにけっこう馴染んでいっている感じがあって、自分が変質していく感じを感じてちょっと怖い。

8月20日(土) 

公園のすぐのところに薄緑色の巨大なガスタンクがいくつか並んでそびえている。その敷地に沿って歩いて近くで見るガスタンクは螺旋状の階段とか球の周囲を歩く道とかさらに高く上がる階段とかがあってあそこを人が歩くのかと思うとめまいがするようだ。歩き続け、さっき「本当に公園になんて着くのか」と思って地図を見たときにこのまま南下したら祖師ヶ谷大蔵に出ることがわかって、3キロくらいだった、祖師ヶ谷大蔵といえばノストスブックスじゃないか、こんな機会はそうそうないと思い、それじゃあ芦花公園のあとはノストスまで行ってみようということになったのだった。なかなか遠い感じはあったがやっぱり知らない道はただただ面白く、僕たちは延々としゃべりながら南進した。広い団地を抜けて商店街に出て、着いたかと思ってからがまた遠く、祖師谷の商店街はめちゃくちゃ長かった。遊ちゃんが「阿久津くん歩くの速い」と言うのでぽつぽつ雨も降っているし目的地も近づいてきた感じもして歩くのが速くなっちゃったかなと反省したが、それから速度を意識していると僕が速くなったのではなくて遊ちゃんが著しく遅くなっていることがわかった。疲れたよね、ちょっと休憩したいね、ひとまずノストスだね、と言ってゆっくり歩き、商店街に入ってから踏切に当たるまでかなり歩いたように感じた。すごい長さで商店が連なり続けている感じ。踏切を渡ってから左手にオオゼキが見えた。オオゼキはさっきも見たばかりだった。南側のこちらは「オオゼキ ピコ」という普通のオオゼキとはまた違うラインのようなのだが同じ駅の北と南の両方にオオゼキがあるというのは、他にそんな駅はあるのだろうか。

8月21日(日) 

1時には山口くんが来るからひとりなのは1時間だけだが、初めての開店作業で何をやったらいいかわからない感じもあり、ぼーっとしている。ご飯を食べたい気もしたけれどやめた。最低限の準備をすると開け、座っている。スローなスタート。お客さんがやってきたのでほっとする。それで予定通り1時になるころに山口くんが来て、店はひどく暇だ。なんとなく気持ちが悄然としていくのを感じる。動いているとあれもこれも改善していきたい欲求が出てきて、ちょっと出させてもらう。駅のほうまで戻ってFALLに初めて入り、箸置きをいくつかほしかった。あったので見当をつけてもうしばらく店をうろうろしていると陶器のボタンがあって、それがとてもかわいい。あれ、これ、箸置きとしても使えるのでは、とひらめていて、想像したらなんてチャーミングな箸置きなんだろうとウキウキするようだ。3つ買う。ご飯を食べ損ねたままだったので富士そばに行ってもりそばとミニカツ丼。箱そばよりもお腹がいっぱいになる感じがある。それでライフに寄って水切りカゴのカトラリーラックというのか箸とかを入れるやつとか、ピーラーとか、ペッパーミルとか、使い勝手が悪かったものをいくつか新たに買ったりして店に戻る。暇なままだ。
7時くらいまでなんとなく過ごし、気持ちは落ち込んでいく。出、バスで吉祥寺までと思ったがバスがすーっと走り出すところを見て諦め、西荻窪まで歩いて三鷹からバスで調布。バスに揺られているうちに気持ちが前向きになっていくのを感じ、無限ではく有限の、散在する問題でしかない、ひとつひとつ切り分けてやればひとつひとつ片付く、それだけだという気持ちにやっとなれる。それで珈琲館に入って仕事。
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