読書の日記(4/11-17)

2022.04.22
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動き出せないタスク/『競争の戦略』……カスケードの……ビジョンの……アスピレーション……遊ぶ場所……プレイ……5フォース……/営業時間の検討/珈琲館/張り切り晩ごはん、ひよこ豆のスープ、鶏肉と野菜のオーブン焼き、そら豆のグリル、ピザ/「読書がお好きなんですか?」/5つの脅威、広義の敵対関係/ミカン、実験、ボーナストラック/文喫、篠原紙工、インゴルド/新宿、ベルク、ハブ/佐々木朗希、9回表、149キロ/17時31分初台、19時19分那須塩原/大田原、祭、山車/

抜粋

##4月11日(月)  スーパーに行く前、遊ちゃんは部屋でパソコンの画面を見ながら、僕は廊下から遊ちゃんの部屋を覗くような格好で話していた。これからスーパーに行くことを言うと「今日は何をつくるの?」と聞かれて「カレーにしようかな」と答えると「へえ」と返ってきた。カレーを検討しているのは昨日の焼きそばの玉ねぎと人参とキャベツがあるからカレーの具材にもなるかなと思ってのことだったが、「だけどキャベツは違うかもねえ」と言うと「さっき何つくるって言ったんだっけ?」と言われ、さっきとはいつのことだろう、なんのことだろう、まさか、と思いながら「カレーのこと?」と聞くと「あそうだカレー」となった。たった10秒前に相槌が打たれていたことがまさかまったく耳に入っていなかったとは! 会話とはいったい! 人に話を聞いてもらえない状態とはこんなにも聞いてもらえないものか! となってふたりで大笑いしてたいへん平和。それでスーパーに着くころにはカレーはキャンセルで肉野菜炒めにすることにし、豚こまとピーマンを買った。ピーマンはスライスして塩もみして生姜と白だしで和えた。白だしは便利。野菜を切って肉を醤油とかで漬けておくとそこでいったんやめにしてビールを飲んだり『ケルト人の夢』を読んだりしている。布団以外でこの小説を読むのは滅多にないことだ。読んでいたら突然胸に迫ってくる感じになって涙が溢れた。たくさんの暴力。
##4月12日(火)  マイケル・ポーターの『競争の戦略』を床から拾うのを後ろから遊ちゃんが見ていて、年明けにずらっと並べられたすごい量のビジネス書がずいぶん少なくなってきたねと言われてたしかにそうだった。 床から拾い上げて読んで、読み終えたのは机の上とかクッションの上とかダンボールの上とかいろいろな場所に置かれていく。だから床のところが未読コーナーということになっていたのだが数えるとあと10冊くらいだろうか、ずいぶん痩せた。それで今日からは『競争の戦略』で、なんでそれを読むのと聞かれて寝起きということもあったのか言葉がまるでうまく出ず、カスケードの……ビジョンの……アスピレーションはできたから……遊ぶ場所……プレイ……5フォースと3C、スウォット……その5C……5フォースの……それがポーター……戦略策定の……だけど競争って……と玄関に言葉がぽろぽろ落ちていく。「伝わった?」と聞いたら伝わっていなかった、伝わっていなくて正解だよ、これで理解できる気になる人は一番怖い、「これでわかったら」と言いながら遊ちゃんをぎゅっと抱きしめ、「推論のはしご駆け上がりすぎ」そう言うと家を出た。
##4月13日(水)  家に帰るとさっそく料理に取り掛かって玉ねぎとセロリとにんにくとトマトとひよこ豆をスープにし、ズッキーニとカブとパプリカと鶏肉を切ってオイルに絡めておいてこれはオーブン焼きにする。そら豆もグリルで焼く。ピザ生地をつくってピザを焼くわけではなくプレーンのピザというか、小さいプレーンのピザみたいなものをポコポコ焼いてレバーペーストとかで食べるのはどうだろうと思って生地の準備。
準備が済むといくらか仕事をしながら遊ちゃんが仕事を終えるのを待って、8時ごろ始める。ピザ焼いて、そら豆焼いて、スープを飲んで、ビールを飲んで、ピザが焼けたら野菜を焼いて、ピザ食って、そら豆食って、白ワイン飲み始めて、野菜が焼けたらまたピザ焼いて、野菜を食って、野菜が終わったらカブをもうひとつと春キャベツをオーブンで焼いて、ワインが終わったらレモンサワーつくって。家飲みの楽しさが凝縮されたような楽しさがあってすごくよかった。食べ物はどれもすごくおいしかったがオーブンで焼いた肉と野菜は何よりだった、特にカブがとろっとろでよかった。春衣ちゃんからいただいた濃厚な赤ワインビネガーを刺し身の醤油みたいな感じで使いながら食べてとにかくおいしい。
##4月14日(木)  起きるとすぐに家を出て下北沢に。まず鍼灸院で指圧。さっきまで寝ていたのにまたベッドに臥すのかと思う。受付の方法を教わっている様子とかを見ると今日がまるっきり初日なのかもしれない若い先生が今日の担当で、指圧が始まるとすぐに「読書がお好きなんですか?」と聞いてきた。待っているあいだに本を開いていた姿を見て話題になると思ったようだ。「業界というものを、分析上の便利を考えて、つぎのように定義することにしよう。互いに代替可能な製品をつくっている会社の集団―これが業界である」と今読んでいた『競争の戦略』にはあってなんとなく気に入るフレーズだった。読書は、そうですね、好きですねと答え、すると今度はどういう本を読むのかと聞かれて今読んでいたのはビジネス書で、普段は小説かビジネス書かっていう感じですかね。小説はいろいろなジャンルを読むんですか、ミステリーとかサスペンスとか、と聞かれ、そうですねえ、なんだろう、文学って呼ばれるものが多いかもしれないです。文学ですか、文学っていうと夏目漱石とかですか。そうですね、漱石とかですね。おすすめの文学はありますか。おすすめ、これが難しい問いだ。そう聞かれてとっさに浮かぶものがなくて、いやとっさに浮かんだのがどうしてなのかボラーニョの『2666』で、なぜか『2666』以外なにも浮かばなくて、やはり僕は「挙げる」という行為がとても下手だ。しかしなぜ『2666』なのだろう、もしかしたらさっきまで持っていた『競争の戦略』の重みが共鳴して、あるいは価格帯も共鳴して、それで『2666』が呼び起こされたのだろうか。とにかくそれ以外浮かばずに口ごもってから、あ、漱石かと思ったのでそれこそ漱石はすごくおもしろいですよと言う。
##4月15日(金)  文喫に着くと入ってすぐのところで篠原紙工の展示がやっていてそういえば何かでそんな情報をちらっと見ていた、ラッキーだ、けっこうじっくり見る。展示の台になっているのは台だと思ったら分厚い紙を重ねたもので、それも格好よかった。新島さんが手掛けた芝木好子の小説集をためつすがめつ眺めた。矯めつ眇めつ。
気が済んで入場してうろうろ歩き、篠原紙工の展示は中でも続いていて手掛けられた本が様々な場所に置かれている、その中に山口くんの『誰かの日記』があってうれしい。
##4月16日(土)  『競争の戦略』を熱心に読んでいる。今は「マーケット・シグナル」という章でマーケットが発するシグナルについての話のようだ。競業者を牽制したり懐柔したり脅迫したりする。競争というのがやっぱり全然わからないなと思いながら、でもまだ読んでいる。「予告の六番目の機能」、「言語の七番目の機能」みたいだ、「予告の六番目の機能」はこういうものだそうだ。
金のかかる動きを同業者がいっせいに採用するのを回避できるという点である。たとえば、同業者が工場をいっせいに新設すれば、その業界が設備過剰になるような場合がこれに当てはまる。工場拡張計画を実施のかなり前に発表することによって、同業者の工場拡張計画を段階的に行なわせることが可能になり、設備過剰を最小限に抑えることができる。この点については、15章でくわしく述べる。 M・E・ポーター『競争の戦略』(土岐坤、服部照夫、中辻万治訳、ダイヤモンド社)p.113
これ、15章でくわしく述べるんだなあ! と思って感銘を受ける。そんなにたくさん書くことがあるのかあ、という感銘。すごいやポーター。
##4月17日(日)  夜店が連なる通りに出ると人の群れがつくりだす音であたりが満たされた、その音を破るように祭の音もする。ビールを売っているところを見つけたので買って、向こうから三本締めの手拍子が聞こえる。もう終わりのところだろうか。ビール片手に近づいていくと山車が何台も集結していて、上にいる人たちは体を乗り出して下を覗いて誰かに何か話しかけたり、直立不動で真っ直ぐ前を見たりしている。中にいる人たちは笛を吹いたり太鼓を叩いたりしている。山車ごとにばらばらにつくられたビートに囲まれながら僕たちは突っ立っていた。 山車はこれからそれぞれの町に帰るところらしく、一台ずつ順番に退場していく。ジャッキで車体を上げた状態でみんなでがんばって方向を転換し、方向が定まるとジャッキを外し、進んでいく。上に立っている人たちは他の山車の人たちに手を振ったりお辞儀をしたりして、下にいる人たちも方々で握手をしたり肩を叩いたりしていて、互いの何かを称え合うようだった。
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