読書の日記(11/22-28)

2021.12.03
269.png
今日からは『星野リゾートの教科書』/「今の自分を越えていく」/それにしても夜は誰も来ない/ビジネス書ホッピング/電車で『LISTEN』を読み始める/聞くことの暴力/新聞の取材/単調なうどん、完璧ななか卯/野川公園/多磨霊園のデニーズ/日本シリーズをラジオで/法人設立書類の提出/「「幸せな読書の時間」の総量を増やす」というミッションが実現されればされるほど、それが売上になる/レイトショー割の紆余曲折/『Number』、松坂大輔のインタビュー/ギトギトの自己満足感/毎晩ベルンハルト

抜粋

11月22日(月) 

途中、「今の自分を越えていく必要があるじゃないですか」と僕の口は言っていて、言ったあとにもう一度「今の自分を越えていく」と言ってから、2分くらい「今の自分を越えていく」でゲラゲラ笑った。こんなことをこの口が言うようになるのかと。だけど、笑うけど、でも越えていくということは大切すぎることだ、僕たちはまだ何もやらずに嘆いている、やれることを全部やってから嘆くべきだ、がんばりましょうね、10時ごろ散会し、帰り道も『星野リゾートの教科書』、そこにあった星野リゾートの取り組みでこれはフヅクエにも使えるんじゃないかと思うものがあって、教科書を読み込んで教科書どおりにやるというのが星野流なのに、教科書案内本をただ形だけをなぞって「これをやればいいんじゃないか!」とか笑止ですよと、枕元に立った星野さんに言われそうだ。

11月23日(火) 

開店から1時間もしないところでほぼ満席になって今日は予約の方が多い、そしてその予約も長いものが多くてなんというかガッチリ固まっている感じがして、このメンツで今日は行くよ、みたいなそういう雰囲気。というのは僕が予約の表を見ながら勝手に感じているだけだが。こういう忙しさも楽しい。
それにしても忙しさの基準や感覚みたいなものがバグってきた感じがあって今日も大忙しの部類に入るはずなのに、なんだか暇なような気がしてくる。完全に間違い。6時になって山口くんが来て山口くんももうこのくらいじゃ驚かないようだ。淡々と仕事をこなしていく。僕は、それでもその、同じように、ソロの時間の張り詰めが終わるとどっと疲れに飲み込まれて、椅子に座っている。なんだか各店の状況が気になって下北沢や西荻窪の今日の売上を見ていたらどの店も今日は好調みたいで、うれしい。しかしそれにしても夜は誰も来ないものだ。

11月24日(水) 

電車で『LISTEN』を読み始める。結局次々に読んでいる。聞くことについて考えながら、今日は午前中は新聞の取材だった、店に着いてコーヒーを淹れて、屋上に上がって煙草を吸いながら飲んでいた。毎日コーヒーが本当においしい。
記者。聴取。出来事に耳を澄ませること。フヅクエにも記者的な人がいたらいいな、とふと思って、各店で起こったことや起きつつあることを拾ってそれをブログ記事やSNS投稿にしていく、みたいなそういう人で、そんな人がいたら楽しいなと思って時間になって取材を受ける。聞くこと、人の話を聞くこと、と思うが今日は僕はしゃべるべき人だからペラペラとしゃべる。

11月25日(木) 

橋を渡って北側に行き、こちらでもちびっこたちが駆け回っている。野川公園の隅をかすめるように歩いていって、線路をくぐって武蔵野公園に入った。遊ちゃんは野川公園がとても好きだ、ここで言う「野川公園」は野川公園と武蔵野公園を両方含んだもので、野川公園は自然な感じ、武蔵野公園はもう少し整備された感じ、という印象だそうだ。野川に沿って少し歩き、犬を連れた人が歩き、ジョギングの人が走り、人はしかし総じて少ない。東屋が見えたのでそこに座り、10時半、パソコンを出してミーチング。来月から出退勤の打刻を始めることにして、これまではNotionの出勤簿に各自で入力という方式だったが打刻になる、その運用方法を検討したり。30分で終え、その間は遊ちゃんも仕事の電話とかをしていた。
で、お散歩を再開してたくさんの木々だ。黄色や赤がたっぷりある。樹種もとても豊富そうでまったく見飽きない。野川はちょろちょろと細く細く流れていて、その上に架かる橋を渡って向こうに行くと老人の集団が引率されながらぞろぞろ歩いていて、みな楽しそうな顔をしていてよかった。テーブルでご飯を広げて無言で食べるおばあさん4人組がいた。サンテグジュペリみたいな名前の木があって、サンテグジュペリみたいな名前というだけで実際にはサンテグジュペリという名前ではないのだけど、それはたしかにどこかサンテグジュペリっぽい木だった。

11月26日(金) 

僕は法人設立書類を片付けることにしてたくさんある書類は「個人実印」「法人印」とわかりやすい付箋をつけてもらっているからわかりやすい、付箋にそう書いているだけでなく個人実印は緑、法人印は青と付箋自体を色分けしてくれているから、ものすごくわかりやすい。僕はもうNotion以降、文字だけでは情報を処理できなくなってきた感じがあるというか、本を読んでいるときはもちろん文字だけで情報を処理するわけだが、そうじゃないものは絵文字とか色とかそういう助けがとても助かるように感じるようになっていてそれはそこにおいては忍耐が限りなく小さくなっているということかもしれない。もう色だけでわかるようにして! というような。だからそういう小さな忍耐の状態の僕にとって色分けされた付箋はわかりやすくて個人実印をとんとん押していく。法人印も押したいところだがこれを押せるだけの大きさの朱肉がここにはなくて、だから個人の分だけ押し終えるとコンビニに行って朱肉を買い、そしてプリンターの上でポンポン法人印を押して書類を完成させた。そして投函した。これで法人の出来上がりだ。偉い、と思いながらスーパーにまた行ってキャベツと長ねぎとビールを買って2本目のビールを飲んで家に帰った。

11月27日(土) 

だからあまりそこを気にする必要もないのかもしれないけれども、でも何かそれは不当な安売りという感覚になってきた。ではどこなら、と思ったときに1時間フヅクエと同じラインなんだろうな、1000円ちょっとはいただける、というそのラインだろう、と思ったときにハッとなって、予算目安1200円前後、と打ち出すのはどうかということでつまりレイトショー、20時以降、1200円、それは映画館のそれとぴったり同じでしっくりだ。人はこれから、今晩は映画を見に行こうかな、本を読みに行こうかな、そう迷うことになる。
で、営業が終わると山口くんとその話をして700円は山口くんも安すぎる感覚だし1200円前後という見せ方もいい、今日は映画にするか読書をするかで迷う夜があるしそこで並ぼうとするのはいいことだとお墨付きをくれた、ビールを飲んでしゃべっていたらあっという間に時間で、電車電車と慌てて出、帰り。笹塚まではパソコンをパチパチしながら、笹塚からは『LISTEN』を読みながら。

11月28日(日) 

今日はソロフル番。いっそ昨日を超えるような猛烈な日になったら楽しいなと思いながら律儀に開店の準備をしていると、明らかに精彩を欠く動きを自分がしていることに気づき、昨日の一日だけでけっこう疲れているものだなと思う。
トイレで『Number』を開いて松坂大輔のインタビューの続きを読んだ。
「この前、斎藤(佑樹)君が引退試合で投げていたじゃないですか。僕、投げているところを久しぶりに見たんですけど、投げ方を見て、苦労したんだろうなと思いました。肩を痛めたピッチャーの投げ方でしたよね。痛い中でも打ち取れる形、投げられるボールを探しながらやってきたんだろうなって、すぐにわかりました。彼が投げている姿を見て勝手に共感しちゃって、自然と涙が出てきたんです。『他の人にはわからないかもしれないけれど、オレにはわかるよ』って……こんなに涙腺がゆるくなったのは、歳を取ったせいなんですかね」 『Number 1039号「松坂大輔 引退特集 平成の怪物のすべて」』(文藝春秋)p.15
松坂が斎藤の登板を見ている、というその状況にぐっと来る。優しいヒーロー、と思う。
・・・
残り約1万4000字のフルバージョンはメールマガジンかnoteで読めます