『若い藝術家の肖像』を読む(6) そこはアイルランドか

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何も知らないままに読む、ということをおこなうのは存外に難しく、例えば今も、くすんだ金色の帯に「ジョイスの半自伝的小説」といった文言を見てしまい僕は息を呑み、あわてて横に押しのけた。そんなことは知りたくなかったんだよ!
そういうわけでこれはジェイムズ・ジョイスさんの半自伝的小説らしい。帯、恨めしい。そのため、元々そうするつもりだったのだけど一歩遅かったわけだけど、渋谷の西武百貨店にできた紀伊國屋書店に行って何かの本を購入した際にオープン直後だったためカバーをさしあげますというような形でいただいたカバーをつけた。紙じゃないので丈夫そうで何よりよい。
しかしどのようにして読み始めたらいいのか。
いま、この『若い藝術家の肖像』という小説について知っていることと言えば著者の名前が「ジェイムズ・ジョイス」ということと(ジェームスだと思っていたらジェームズでもなくジェイムズなのかというのは新たな発見というか)、タイトルが「若い藝術家の肖像」ということと、訳者が「丸谷才一」ということ、それから「半自伝的な小説」であるということ、ということは舞台はきっとブラジルとか中国とかアフリカとかではなくジェイムズ・ジョイスが生まれ育ったと思われる、おそらくアイルランドなのだろう。
なぜアイルランドだとわかるか。彼は『ダブリン市民』という小説を書いているため、ダブリンといったらアイルランド、っていうほど僕のなかでダブリンという町のことは浸透していないのだけど、きっとアイルランド、というかどこかで見たんだと思う最近、アイルランドといえばジョイスくらいの放言を。あとダブリン=アイルランドはさっとは出てはこないのだけど、渋谷にダブリナーズってパブが確かあったよね、あそこで学生の時分にFIFAワールドカップの試合をテレビ観戦したことがあった。アイリッシュパブっていうところだよね、たしか。ということはダブリナーズ=アイリッシュパブ=アイルランドだからやっぱりアイルランドなんだと思う。ほぼ間違いないだろう。
そんなことを思って、アイルランドのこと、何も知らないな、と、そう思っていた矢先の出来事でした。
スパイスを買いに新大久保に行ったついでという位置ではないことはあとで気がついたけれどもついでのつもりで神楽坂に行った。いくつか行ってみたい場所があったためで、神楽坂観光みたいな感じになったのだけど、そこで行きたかった筆頭のかもめブックスに寄った際にお酒本コーナーをなんの気なしに見たところ、「ウイスキー 起源への旅」というタイトルが目に止まり手に取った。帯、また帯だ、その帯に「それは中世、アイルランドの教会で生まれた」とあったのだ…
ということで買って読みつつある。
それからボルヘスの『伝奇集』、こちらも最近一日一編とか二編とかあるいは二日に一編とかのペースで読んでいるのだけど、同じ日のことだった、その日に読んだ「裏切り者と英雄のテーマ」の舞台がアイルランドだった!そして次の「死とコンパス」、こちらもアイルランド人がどうのというのが出てきた!さらに「ブラック・フィネガン」という人名が出てきたのだけど、『フィネガンズ・ウェイク』ってジョイスだったよねたしか。アイルランド!ジョイス!こりゃもう、俺はさっそく『若い藝術家の肖像』という小説に取り憑かれている…!と思った。