連休を取る前日、開店して間もない時間にお二人さんが来られた。
席につかれてからも普通にお話されているので、もしやと思って「ちなみにここってしゃべっちゃいけない店っていう感じのあれなんですけどそれってご存知ですか?」とお尋ねしたところ知らなかったと。
今は他に誰もいないので全然ふつうにしゃべってもらって大丈夫なんですけど他の方が来られたらあれでお願いします、という感じでお伝えした。
たぶん初台か初台近辺の方で、あそこに店ができたっぽい、それじゃあ今度行ってみよう、という流れなのかな、と思ったのだけど、あそこで茶をしばきにいこう、と示し合わせて行ってみたら「しゃべっちゃダメ」とか抜かされたらけっこう面食らうというか、ありえないんじゃないのかと僕は思っていて、だって普通にしゃべりたいじゃないですかというか。
だからそこでは受け入れてくれたけれども、茶をしばいたらさっさと退散とか、あるいは他の人が来てしゃべれなくなった時点で退散とか、そういう感じになるよなー少なくとも俺だったらそうするだろうな、とか思いながらコーヒーを淹れたりしていた。
で、一時間くらいはどなたも来られず「今日も今日とて」とか思っていたのだけど、そのあたりで一人来られて、さあ、どうなるんだろう、帰られるのか、それとも時おりあるように「すいませんお静かに」と言うことになるのか、などあれこれ思っていたら、お互いに本を読んでまるで話すことなくそれから一時間くらい過ごされる、というふうに事態は推移した。
こういうふうに特定のお客さんの過ごし方について書くことを僕はわりとしないようにしているつもりなのだけど、今回はなんか書きたくなったので書いているというか。
だってこれ、すごくないですか!?と思ったというか、おしゃべり予定の二人がしゃべりを禁じられ、そのルールに即座に則っておのおのの時間をしっかりと過ごす、って、僕はそれはとてもかっこいいことに思える。
二人で来られてぴったり黙って過ごされる方々についてはこれまでもかっこいいお二人だなと感じ入ってはいたのだけど、今回はある種の事故的な状況だけに、よりいっそうかっこよく見えたし、そしてとてもうれしい思いがした。
お帰りの際にそういった感想というか、感想というとあれだな、「なんか突然のだんまりなのにそういう感じで過ごしてもらえてすごく嬉しかったです」みたいなことを伝えたかったのだけど、「あ、あっ…」みたいななぜか失語の状態になってしまって何も伝えられないまま見送った。
看板を下に出さないのは、しゃべっちゃいけないという特殊な店に気持ちの準備的なものなしに入ってしまった場合、お客さんにとって不幸な感じになりそう、そうなったら俺も不幸、という理由が大きいわけだけど、こういうこともあるものだなと、喜ばしい驚きとして驚いた出来事でした、というわけでした。