CREA 2017年9月号 本と音楽とコーヒー。

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掲題の雑誌でご紹介いただきまして取材後ライターの方とのやり取りのなかで店舗情報とかのところに「人生の一冊、一曲、一杯」というやつが必要なので挙げてくださいと言われてヴァージニア・ウルフの日記を読んでいたところだったためウルフの『灯台へ』と、ナンバーガールの「Omoide In My Head」と、一杯、というので、どこの店のそれみたいな、そんなもの俺にはないというか、いくつか思いつくものはあるけれどなんていうのか、なんか気張った感じが出そうというかダサいよなというか、そういうのしか思いつかなかったので「閉店後に飲む金麦」と答えることにしたというかこれが実際いちばん正しい、人生と一番ちゃんと関係している、そういう気がしてそう答えたわけだけど今これ書き始めるに当たってまずタイトルというところで『CREA』のwebに行って正式なというのかちゃんとしたタイトルをコピペというので行ったらあれ? 本と音楽とコーヒー? コーヒー? と思って、もしかしてここってコーヒー系のことを答えるべきだったコーナーだったの? と初めて思ってわっはっはと思ったんですがナンバーガールを初めて聞いたのは中学三年の誕生日のときに友だちから『School Girl Bye Bye』のMDをもらったそのときだった。僕はそれまではカウントダウンTVとかで見るトップ50くらいの外に音楽が存在するということをたぶんほとんど知らなくて、音楽というのはこのトップ50のなかに全部あるもんだと思っていたふしがあって、レンタル屋さんに通って10位以内とかのマキシシングルとかを借りてはMDに録音して、というそういう暮らしだったわけだがそこに黒船のようにあらわれた一枚の青いMD、それを再生した瞬間はなにが起きたのかきっとわからなかった。アヒト・イナザワのドラムロール(って打ってたらちょっと突如こみ上げてきたものがあってワロタ)がダララララララとなって、ジャキジャキの、ギターが、鳴らされ、田渕ひさ子は飛び跳ねていて。そのときの僕の耳にはたぶん中尾憲太郎、何歳だろう、中尾憲太郎のベースは聞こえはしなかったのだろうな。でも体は何かは受け取ってはいたんだろうな。ブリブリと。それで長い、なっがい、え、大丈夫なのこんなに長くて大丈夫なの怒られないのみたいな、たぶん僕はそういうとらわれの中にいて戸惑いを覚えながらスピーカーの前にいたんだろう、そんな長い、なっがいイントロが終わって歌が始まると思ったら始まった歌があって、向井秀徳が歌ってらっしゃる歌があって、僕はたぶんそこで腰を抜かした。「ボーカルちっちゃwwwwwww」と抜かした。それから「聞き取れないwwwwww」みたいな、抜かし方をして。続いていく曲の展開も僕をとてつもなく驚かせた。え、AメロBメロサビで2番みたいな、そういうのじゃなくていいの?! みたいな、なにこの展開は!? みたいな。ベッドの上でひっくり返って、同時に世界もひっくり返ったのだろう。「あ、その外があったんだ」だったし、「あ、こんなのありなんだ」だった。つまりなんというか、大げさに言えば世界の枠組みみたいなものが組み替えられた。拡げられた。たぶん「自由」みたいな、そんな言葉が、言葉というか感覚というか体験が、僕に与えられた。のはこの瞬間だったんじゃないか。知らず、自分を収めていた枠のようなものの外に出るきっかけ、出ていいという知らせ、出ることなんて可能なんだという教え、それがこの曲が与えてくれたものだったんじゃないか。わりとたぶん本当にそうなんじゃないかと思うのだけれどこの曲と出会ったときに僕の人生は始まった。というのが「Omoide In My Head」でした、という話でした。