「ベターライフ・カタログ」(『&Premium no.25 January 2016』)

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ポテトチップス(うすしお)が好物で、「ここぞ」という夜にはぜひ食べたい。「ひと袋では足りないかな?」と思って一度パーティーサイズのやつを買ってきたら「さすがに」というふうにはなったがしかし後悔はしないで食べきる。はらいっぱいでしあわせ。
そういう人間がやっている店でも「ベターライフ」を標榜するような雑誌に取り上げていただくことがあるものなのだな、というのがこのたびの発見であり、掲題の通り11月20日発売の雑誌『&Premium』の「ベターライフ・カタログ」という特集の「BEFORE SLEEP 寝る前に。」の項で紹介いただいた。
今特集は「より良き日々のための案内書」たらんとするこの雑誌が2周年を機に基本コンセプトを見つめなおすという格好らしいのだけど、「ふむふむ」と思いながら特集最初の「BEFORE BREAKFAST 朝食の前に。」の項に「白湯を飲む。」とあったのを見た瞬間に「ひえ〜!www」となるような人間が僕であり、「ベターライフ」というのも僕が訳するなら「より良い暮らし」ではなく「ましな暮らし」になるだろうなと、斜に構えた態度のひとつやふたつを反射的に取りたくなる。なお、僕の場合はコーヒーを淹れ(←ベターライフポイント高い)、煙草を吸う、というのが朝一の習慣である。
しかしよくよくというかまじめにというか斜じゃないというか逃げないというかヘラヘラして自分を守ろうとしない構え方をちょっとしてみさえすれば、フヅクエのメニューの最初のところにこう書かれていることを思い出すだろう。
「ここでの時間が、明日への活力というか、よりよく生きるぞみたいなモードというか、をもたらすことができたら最高だな、そんな場所であれたら最高だな、と、そんな気持ちでやっています」
思い切りアイ・アム・ア・ベターライフ・マスターというかベターライフナイトライダーというかベターライフコンダクターというかベターライフワナビーというか。そんな文言が。
だからつまりフヅクエもそもそもベターライフを標榜してたんだね!という気づき・学びなんですけど、つい先日、これはTwitterでも書いたけれど、遅い時間に来られた方がお帰りの際に「一日のいい締めくくりになりました」つって帰っていかれて、その方にとってこの場所での時間が何かしらの充足をもたらしたのだと思うのだけど、そんな言葉をもらった僕は「いやーほんとこちらこそ、いやーうれしいなーそれ」という極めてホクホクな気持ちになった。その前夜もやはり11時過ぎの遅い時間に来られた方が「今日はどうしてもここのご飯が食べたくて」つって帰っていかれて、なんか二日連続で閉店前にうれしい言葉もらっちゃってなんかものすごい嬉しいのだけどこれは何かの陰謀かな?張り巡らされた何かしらかな?と思った次第だった。
ともあれそんなふうに、ここで過ごす方のライフをベターにするための一つのピースとなれたならそれは本当になかなかに素晴らしくスペシャルでプレシャスなことだと強く思っているというか、ライフをベターにするための選択肢として友だちや家族やなんやかんやと愉快なコミュニケーションをおこなうための場所はたくさんありますけど一方でたまにはコミュニケーションから離れてというときに、一人で過ごす時間を豊かで贅沢なものにするための装置が乏しい気がするんですけどどうですか、そんなことないですか、僕はよくわからないので僕自身は超欲しいんですけど、なので作りますね、がこの店の始まりだったわけで。
なわけでこういった特集において取り上げていただけたのはとても光栄なことというか、我が意がこれ以上ないどんぴしゃポイントで得られた感というか、汲み取られた感があり。という感覚は取材の時からあって、なんかとても気持ちのいい取材だったというかちゃんと通じ合っている感というか有機的な会話がおこなわれている感というか、フォーカスされるポイントがよいところで共有されている感があった、というあの感覚はこの感覚だったのか、と誌面を見て思った。そのため明日からは朝のルーチンに「冬の小鳥を観察する。」を加えようと思いました。
以上、今夜も静かにベターライフ・フヅクエがお届けしました。