とても無理だろう、そう思っていた。
昨日思い立ったことが二つあった。一つは菊地成孔と町山智浩の『セッション』をめぐるビーフを読みたいので映画を見ること。もう一つが厨房内に棚を一つ二つちょっと使い勝手よくするために設置すること。
思い立った翌日が吉日とは言うけれど、三軒茶屋に行く用事がある。仕込みも多少ある。L字金物はホームセンターだから中野の島忠ホームズで、映画は新宿にできたばかりのTOHOシネマズ。すべてをこなすためには、朝9時半のセッションに間に合わさなければならない。土台無理なお話でしょう、そう思っていた。最初から諦めていたのか、閉店後にまた走りに行ってしまったり、お、今晩はまーくんの日ですかとか言って2時過ぎ開始のヤンキースの試合を待ったり、そういういつもと変わらない夜を過ごしていた。それどころかFacebookで流れてきた「実はスマップの中居くんの踊りがすごい」みたいな記事を見て、並んでいた3つの動画をじっくり見て「ダンスできる人はかっこいいなァ…」と思ったりしていたくらいだった。そういうわけだからセッションに参加することはどう見積もっても不可能、それが昨夜時点での考えだった。
しかし願えば叶うものなのか、意志の力というのは立派なものなのか、ぴったり8時半に目を覚ますことができたためコーヒーを飲んだら時間がなくなって慌てて歌舞伎町へ向かったのだった。こうして映画に間に合わせることができたため、上映開始前の時間、本を開いた。
「じぶんも、これでなかにはいれると喜びながら、みんなといっしょになった。ロディ・キッカムは、ボールを、泥だらけのひもをつまんで、持っていた。ひとりの生徒が、おしまいにもう一ぺんボールをけってよとたのんだが、返事もしないで歩いてゆく。サイモン・ムーナンがその生徒に、先生が見ているからよせと注意した。相手はサイモン・ムーナンのほうにふりむいていった。
−−なぜそんなことをいうのか、だれだって知っているぜ。きみはマクグレイドのサックだからな。」(P21−22)
「サック」に※がついているのだけど、わからないけど、なんかまあ太鼓持ちみたいな感じなのだろう。サックと太鼓持ちってなんとなく何か似ている気もするし。ナップザックを前で抱えるのと太鼓を持つ感じのイメージかな。ザックになっちゃったけど。と思って「ナップザック」でググったら「ナップサックでしょ?あんたが言いたいのは」とGoogleが言ってきた。そうだったのか…!
それにしても先生に媚を売るだなんて、そんなことしても長期的に見たら大したリターンはない気がするけど、サイモンはいったいどんなつもりなんだろう、ただの小者だろうか、と思っていたら映画が始まった。
先生と生徒の話が始まった。
ハイ、僕はアンドリュー。わたしニコル。という挨拶を聞いて、あれ?アンドリュー・ニコルって映画監督か何かいなかったっけ、とか思ったら『トゥルーマン・ショー』の人だった。『ガタカ』とか近年だと『TIME/タイム』とかあるけど僕は圧倒的に『トゥルーマン・ショー』が好きですね。
それはともかく、なんていうか、すっごいなー、と思いながらドキドキしながら見た。先生も生徒もどっちもどっちというか、ほんとジャジャ馬だなこいつら二人とも、と呆れながらも、ドキドキ。
昨夜走っているとき、珍しく聞いていた音楽に合わせる感じでどんどん自分の中で勢いがついてしまって、昨夜ツイートしたのだけど「「吹き飛ばせ、吹き飛ばせ、吹き飛ばせ、もっとだ、もっと、もっとだ!」みたいななんか一人でやたらヒートアップしてどんどんスピード上げていくっていう楽しい夜を過ごしました」という感じだったのだけど、アンドリューがすごい顔をしてドンドコ入れ込んでいく様子を見ていると昨夜の自分と重なるようで、わかるよアンドリュー、その境地、と肩をたたいてやりたくなった。
なんというか、もともとは大して興味もなかったというかあまり存在を知らないでいたから見るつもりもなかったのだけど、菊地成孔と町山智浩という二人の言葉巧者が何を長々と喧々と諤々とやり取りしているのか、やたら興味が湧いてしまってそれで見たのだけど、すっごいなーと思ったので見てよかった。
しかしまあ音楽映画ってやっぱりいいですね。ドラマーというかパーカッショニストの映画ということで言えば鈴木卓爾の『楽隊のうさぎ』もおすすめというかめちゃくちゃいいですよ。『セッション』見てこのカタルシスはすごいな〜みたいになった方はそれと同じだけのカタルシスを保証します!みたいに言いたくなるようなカタルシスがあった。大好き。
そういうわけで無事ミッションをあれしたので今度は中野、といっても南の方だからそんなに中野っていう場所でもない中野なんだけどでも中野本店、ホームセンター入って金物買って、三茶行って、で店でさっそくL字金物をつけようといっしょけんめいがんばったのだけど全然ダメでしたということはTwitterなりFacebookなりの各種SNSにて報告した通りではあるのですが、なんていうかまあ、とりあえず「やるぞ」と思ったことをやれたというか少なくとも「もっと早く起きていれば」ということにならなかったので大変よい一日でしたという話でした。
また、まだ途中までだけれども、二人の論争もやはりとても面白く、仕事の合間合間に読んでいるところです。