今日の一冊

2019.08.23
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####武田百合子『富士日記(中)』(中央公論新社)
2017年8月23日
人々がくだを巻いているような店で酒を飲もう、そしてくだを巻こうと、そういうことで入った店は大盛況だった。先に着いた僕は右も左も4,5人のグループ、その隙間のようなところに座り、ビールを頼んで本を読んで待った。店を埋める人々の声はおそろしいほど巨大化しており、この状況下でくだを巻こうとしたら店を出たときにはへとへとに疲れているだろう、そういう姿が容易に想像できた。なんでだか『富士日記』がこのとき、いちいちぐっとくるようだった。「車の中で、ながい間、陽に照らされたので眠い。」ただこれだけでとても何かをこちらに伝えてくるような気になった。それから
関井さんの話
○関井さんの家の下を流れる川では、あゆ、はやが釣れる。夜九時には眠くなるので寝てしまうと、朝三時には眼がさめてしまう。がたがたするとうるさがられるので、表へ出てからズボンを穿いて、下の川に釣りに行く。奥さんは高血圧なので冷たい水に手を入れられないから、関井さんが水仕事をする。明日は池袋の先まで墓詣りに行く。これは奥さんの実家の方の墓だということである。以上。
武田百合子『富士日記(中)』(中央公論新社)p.264,265
なんでだかとてもよい心地になった。
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