今日の一冊

2019.06.21
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####レオナルド・パドゥーラ『犬を愛した男』(寺尾隆吉訳、水声社)
新宿のブックファーストの海外文学の棚に向かった。新刊のところを見、それから奥に進んで、「おっす!ラテンアメリカ!調子はどうだい?」みたいなつもりでラテンアメリカ小説のところに来た。すると、目に入った。入って、目を疑った。
この小説は一度渋谷の丸善ジュンク堂で見かけてはいて、そのときは発売直後で面陳列されていた。手に取ったわけでもなかったから、この本のことは面でしか知らなかった。知らなかったが、きっと200ページくらいの作品だろうな、長くて230ページだな、とどうしてだか決めつけていた。チェーホフの「犬を連れた奥さん」が念頭にあったみたいで、あれがどのくらいの長さのものだったかまるで覚えていないけれど(短編だったっけ)、なにか、よくできた小品、みたいな感じかなと、高をくくっていた。
ところが、違った。ブックファーストのその棚に差されていたのは、700ページあるいは800ページほどもありそうなハードカバー。まさかの鈍器系の本だった。
にわかには現実を受け止められなかった僕は、「いや、え、だって、犬を愛した男でしょ? 犬を愛した男って、え、だってそんな、犬連れて散歩して逢瀬を楽しんで終わりくらいじゃないの? なんなの???www」と思い、うろたえた。200ページの小説を読み始めることと700ページの小説を読み始めることは、全然違う。超長編を手に取るときは心の準備が大切で、高めて、高めて、高めて、「いざっ……!!」というのが超長編小説を買う際の、メソッドだ。
それが、なんの構えもないところに、前触れもなく突きつけられた、厚さ。どうしたものか。ただでさえ読書の時間をうまく捻出できない感じにここのところ強いストレスを覚えているのに、こんなものを読み始めたら、まったく身動きができなくなってしまう。一ヶ月とか掛かるかもしれない。そんな状態に耐えられるか? でも、「フィクションのエル・ドラード」シリーズはぜひこのままコンプリートして完走したい。この機会を逃したら、恐れをなして、もう二度と手に取れないんじゃないか。なんせ、「犬を愛した男」で、この厚さ。全然、まったく、惹きつけられないこのタイトルで、この厚さ。「フィクションのエル・ドラード」でなければ、まず手に取ることのないだろうこのタイトルで、この厚さ……
意を決して手に取ると、把持するために広げた手の広さがより明瞭に知らせてくるその分厚さと、持っているだけで腱鞘炎になりそうなずっしりと重いその重さに気持ちがくじけてしまうのを防ぐかのように、大急ぎで、レジに持っていった。
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