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阿久津隆『読書の日記』(NUMABOOKS)

2018年5月6日
というのでひたすらチェックを続けた、ひたすらひたすら原稿を、PDF上で原稿を確認していった、とても久しぶりに日記を読むことになった。時期によって様子が変わって面白かった。2月あたりは、読んでいていくらかしんどいというか、テンションがおかしかった、変な密度というか文章上おかしな高揚のしかたみたいなものをしていて、3月、パッと晴れた気がした。やはり3月は晴れる月だった、『10:04』を読み『三月の5日間』を読み、読むものが晴れると気持ちも文章も晴れるのだろうか、と思った、と思いながら読んだがそれでも3月もわりとミチミチした文章だった気もした、ところどころに、これは全体を通してだけれども、いったいなにを面白がって書いているのかさっぱりわからない寒々しい記述がいくらもあり、そういうところを読むと恥ずかしくなって消したくもなったがもちろんそんなことはしなかったし消したいとは思わなかった。まったく意味がわからないというか、まったく覚えのない、なにを書いているんだ、という一節が挟まれていたりもして、愉快だった、きっとなにかがあったのだろう。
6月は疲れていた、ひたすら疲れのことが書かれていた、もういっぱいいっぱいだったらしかった、本の原稿を書いていた時期だった、それは4月から7月くらいの時期がそれだった、ずっと週6日フルタイムに働きながら原稿を書いていた、休む間なんてなかったそういう時期で6月はそれが極まっていたらしかった、がんばって早起きをしようと試行する時期もあった、断念したらしかった。8月はその本のことで人間関係というか編集者の方といざこざが起きて苦しんでいた、辛そうだった。9月、文章全体がなにかに向かっていった。
途中途中、引用している文章を読んで泣きそうになったりした、例えば『10:04』を引いたここ。

僕が上に乗ると、彼女は目を開けた。色の濃い上皮と透き通った虹彩ストロマ。そして、自分と僕の両方を励ますように「来て」と言った。しかし、僕の知る中で最も気取らない人の声が明らかに演技をしていることに、僕はほほ笑まずにいられなかった。それから二人とも笑いだした。 同前 p.230

ここで僕はいちおうというか間違いなく営業中だったが鼻がツンとして目が熱くなるというわかりやすく涙こみ上げ時の症状に陥った。 読書日記(47) | fuzkue

それから『富士日記』。

私は湖に泳ぎに行かなくなり、庭先の畑や門のまわりに夏咲く花ばかり作った。その熱心さを気ちがいじみていると武田は笑い呆れていたが、朝や夕暮れどき、ながい間花畑の中にしゃがみこんで、花に触ったり見惚れたりしてくれた。喜ぶ風を私に見せてくれた。 言いつのって、武田を震え上るほど怒らせたり、暗い気分にさせたことがある。いいようのない眼付きに、私がおし黙ってしまったことがある。年々体のよわってゆく人のそばで、沢山食べ、沢山しゃべり、大きな声で笑い、庭を駈け上り駈け下り、気分の照り降りをそのままに暮していた丈夫な私は、何て粗野で鈍感な女だったろう。 武田百合子『富士日記(下)』(中央公論新社)p.395,396

五一年はたくさん書かれている。夫を見ながら「気持よさそうにソファで眼をつぶっている」と書く百合子のまなざしに何かほろりとする、「トラ公、やっぱり首が痛いか」と言って夜明けに妻の頭を長いあいだ困ったように撫でている泰淳の姿に何かほろりとする。泣きそうになりながら読んでいた。 読書日記(51) | fuzkue

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