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Entry 0407

柴崎友香『かわうそ堀怪談見習い』(KADOKAWA)

2017年4月7日
昨日の夜に『しんせかい』を読み終えた。

いつか、遠い昔に、ここに似た公園で、たまみと二人でいたことがあった。そのときも、日が暮れるころに他の友だちは次々に帰ってしまい、最後にわたしたちだけが残った。海の底のような色に変わった空の下で、たまみと二人、不安になりながら立っていた。
「覚えてるんや?」
と、抑揚のない声で返した。
「忘れたんかと思ってたわ」
真顔で言うたまみを、わたしは見つめた。
「自分だけ忘れて、なにもなかったことにしてるんかと思ってた」
たまみは、それ以上のことは話さなかった。今日のややこしい客のぐちをいい始め、焦げた肉を食べた。
ときどき、白い花びらが降ってきた。明日はまた雨の予報で、そうしたら花は散ってしまうだろう。 柴崎友香『かわうそ堀怪談見習い』p.100

あ、これは柴崎友香だった。怖かった。でも『パノララ』とかの方が怖かったかもしれない、それこそ『寝ても覚めても』とかの方がずっと怖かったかもしれない、と思って、僕は『寝ても覚めても』と『わたしがいなかった街で』を混同しているところがあるというか間違ったことがあったので検索したらwebに著作一覧があったので見にいって、『わたしがいなかった街で』にこうあった。「1945年の世田谷区若林、大阪の京橋、1992年のユーゴスラヴィア、そして2010年の東京と大阪で。場所と時間、砂羽と夏の二人の「現在」の話。けっこうすごい小説だと思います。読んでください。」こうあって、いやほんとけっこうすごいというかほんとすごい小説だよなーと思って、なんか自著を「けっこうすごい小説だと思います」と書いてくれるこの感じになんだかものすごいうれしい気持ちいい気持ちになった。ところでだからそれまでの小説の方がもしかしたらずっと怖くて、作中でも「恋愛小説を書こうとして書いたわけではないものが恋愛小説として読まれて恋愛小説家とされていったように怪談小説もまた書こうとして書かなくても」みたいなことが書かれていたけれども、僕はだから柴崎友香の小説はなんか怖いものなんか凄いものとしてこれまで読んでいて、怪談小説のこれはむしろ怖さよりもほんのちょっとだけ描かれる恋愛というかほの字的なところが強く印象に残った、お茶屋の男をちょっといいと思うその思い方が強く印象に残った、というのは嘘というか誇張というか都合よく話をまとめようとしてついた嘘というか誇張というかでやっぱり怖かった。やっぱり怖かったし、これまでに柴崎作品に感じていたのとそれはやはり似たような怖さだった。それからこれは職業小説というのか知らないけど、柴崎友香の小説では初めてがっつり仕事の様子が書かれた小説なんじゃないのかという気がした。そんなことはないかもしれない。オフィスでのワークのことは『フルタイムライフ』とかでも書かれていた記憶がある。ともかく小説家の語り手の仕事の様子、そういう部分も面白かった。

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