読書日記(128)

2019.03.24
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##3月16日(土)  八百屋さんに僕が行く時間はまだ荷出しというのか、市場から仕入れてきた野菜を並べている途中でいつも申し訳ないなと思いながらもしょうがないから申し訳なさそうな顔をしたりしなかったりして買う。これから並べられていく野菜が入ったケースが積み重ねられたりしていてその中を覗くと「おや?」と思ってどうやら木の芽だった。 おととい庄野潤三を読んでいたときに夕食時に「細君」が息子たちに「取ってきてちょうだい」と言うと明夫だか良二だかが庭の山椒の木のところに行って小さい葉っぱというか木の芽を取ってきてそれを受け取るとパンと手で叩いて魚に乗せたりして食卓に出すそういう場面が描かれていたこともあって木の芽に反応して、値段を聞いたらけっこういい値段がするけれど「季節のものは格別だから」という八百屋のおとうさんの言葉に押されて買ってきた。さてどうするかと思うがわからないままで、木の芽味噌にするのが一番いいだろうか。調べたら刻んだりするとすぐに変色するとあるしそうかもしれない。
それで準備をして開けて、ゆっくりな始まりだった。胸がゾワゾワしてきた。どうしたんだ? というような。 それで、やることも見当たらないので『本の未来を探す旅 台北』を開いて読み始めた、序文がとてもかっこよく、そのあとの朋丁の方の話がよくて、「この広い世界に制限というものは存在しない」とあって、そうだよね、と思った。そう思う。たしかにそう思えるときがたしかにある。
時間、が大事だと思います。その場所で長く続けていれば自ずと経験も蓄積されますし、時間をかけてはじめてできることもある。半年、1年という短期間ではできなかったことが、継続して可能になる場合もあると思います。おそらくお二人がほかにインタビューする書店の方たちは私たちよりもずっと長く続けている先輩たちでしょう。そうなると正直、苦労話や小さな問題みたいなものは、長い実践の積み上げによって掴んだものの背後に引っ込んで、副次的な話題になっていく。 内沼晋太郎、綾女欣伸『本の未来を探す旅 台北』(朝日出版社)p.23
苦労話や小さな問題みたいなものは長い実践の積み上げによって掴んだものの背後に引っ込んで副次的な話題になっていく。 韓国のときもそうだったけれど僕は書店の本として読んでいなくて自分たちで仕事を立ち上げた人たちの物語として読んでいてそれで僕は朋丁の方の話を読みながら感動していった。
そのまま低調な一日。夜、気持ちも低調になる。サンドイッチやトーストの皿を割って拍車がかかる。嫌なこともある。どうしてこんな失礼なことをする人がいるのかな、と思うこともある。 人を許せない気持ちになることがある。どうしてこんな人を許す必要があるのかな、と思うことがある。 ダウナーな心地になり、不機嫌なまま帰る。店というものはあっけなく簡単にダメになってそして終わるのだろうなと思う。酒を今夜も飲まない気でいたが晴れずウイスキーを飲む。それで吉田健一を開く。ふと、90年前、と思った。この本に描かれているのは戦前の時期のことのようでだからたぶん90年とか前で90年前に人はたしかに生きていて東京の本郷のおでん屋で熱燗をひたすら飲みながらしゃべっている。あれこれを論じている。そう思ったらそこにあった時間とそこから続く時間のことが思われて僕には長すぎて今の不機嫌がどうでもいいものになるような心地があった。
「それはそうだけれど、だって船って長い間乗っているうちに酔うのじゃないのか、」と先天的に船に酔わない質に生れ付いた男が無邪気に聞いた。又それはいいことだった。それで何かこっちの顔が荒れ模様になり掛けていたのが静ってそこは甚兵衛の土間で勘さんと古木君と三人で飲んでいた。それは春の晩で土間が冷えているのが気持がよかった。そんな町一つが血で洗われるようなことがあったらばたまったものではない。又序でに言って置くとこれは剣で一人一人を刺して血を流すという手間が掛ったことをしたのでそれだけ血もよく流れた。併しこれは今になって付け加えているので甚兵衛の土間では春の晩だった。 吉田健一『東京の昔』(筑摩書房) p.105
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