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『若い藝術家の肖像』を読む(22) 『変身物語』を読む(3) 『アイルランドを知れば日本がわかる』を読む

Entry blog fuzkue117

『変身物語』についてはこの回でもう終わりにするけれど、しかも今日書きたいのは内容としてなんでもよくて、中村善也の訳文が素晴らしい仕事をしているなあということだけで、「いいね」って箇所を2箇所引用するだけなんだけど。
Amazonのレビューを見たら他の訳の方がいい、中村訳は簡潔すぎる、格調高くない、みたいな声もあったけれど、そっち知らないからあれだけど、これ自体とてもいいと思う。

第8巻冒頭。
「明けの明星が夜を追いはらって、昼の光を輝きわたらせると、東風はやんで、湿りを帯びた雲が湧いた。おだやかな南風が、帰途につくケパロスと、アイアコスの兵士たちを運ぶ。つつがなくこの風に送られて、思いのほか早く、目ざす港にはいった。」

きれい。空もいいんだけど何より風がもたらす動きがいい。

河神と飲んでくっちゃべっているくだり。
「ひときわすぐれた英雄は、眼下の海を見晴らしながらこうたずねた。「あすこは」――と指で示しながら――「どういうところですか?あの島は何という名前でしょうか?島といっても、一つだけではないようですが」

うまくこれがいいとは言えないのだけど、ダッシュの感じがいいのかな、適当。疑問文が続くところとか。なんか好き。

以上、『変身物語』とてもいいよ、でした。

それでここ数日はお客さんに教わった林景一『アイルランドを知れば日本がわかる』を読んでいるのだけど、これもとてもいい。実にわかりやすいし、知らないことばっかりで楽しい。
以前「O’ってなんだ」という疑問が湧いたことを書いたし、それを「余計な謎」としてわきに退けておいたのだけど、瞬く間に教えてくれた。

『風と共に去りぬ』がいかにアイルランドの話かっていう説明のところで。
「この「O’Hara」というのは、オブライアン、オマリー、オニールなどと同様、「O’」で始まる典型的なアイルランドの姓である。なお「O’〜」という言葉は、アイルランド語(ゲール語とも呼ばれる)で「〜の子孫」という意味だ」

明快!

で、『風と共に去りぬ』で、農園を「タラ(Tara)」と名付けるらしい。それは「タラの丘」という、「古代ケルトの聖地であるとともに、中世アイルランドの大王の宮殿があったとされることから、虐げられたアイルランド国民の “心の聖地” をあらわす地」なのだそうで。
TaraときてO’ときたらTara Jane O’Neilじゃないか!と。とても好き。YouTube
アイルランド系という情報はうまく見つからなかったのだけど、タラ・ジェイン・オニールはアメリカはケンタッキー州の生まれだそうだ。

『アイルランドを知れば〜』によると、アメリカ独立戦争(1775~83年)までに20万人以上のアイルランド人がアメリカに渡って全人口の10%を占め、19世紀に入ってからも、特に1845年からのアイルランド大飢饉のときなどに集中しつつずっと移住が続き、表を見る感じだと400万人ほどがアメリカに移住していったみたいで、現在アイルランド系アメリカ人というのは4000万人とかになるそうだ。
ちなみにアイルランドの人口は現在600万人ほどだそうで、なんだかダイナミックだな、アイルランド、と思いました。
知ってた?俺まったく知らなかった。だから楽しい。

(画像は『風と共に去りぬ』の映画のやつ)

画像 : Gone with the Wind (film) - Wikipedia, the free encyclopedia

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