今日の一冊

2019.03.08
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ベン・ラーナー『10:04』(木原善彦訳、白水社)

2017年3月8日
金麦の桜のラベルの広告のコピーが可笑しかった、この場合はひらがなよりも漢字を振りたかった、可笑しかったと聞いたのを今思い出したので「ので」と打ったところで止めて検索をしたところ見つかってちゃんと情報を整備している金麦というかサントリーに好感が持ててコピーは「風と、花びらと、笑い声と、つないだ手と、新しいスニーカーと、レジャーシート、お弁当と、鼻歌と、八分咲きと、うきうきと、待ちに待っていたこと、変わらないこと、目が合うこと、笑っちゃうこと、ささやかなこと、ほっと、たしかなこと、小さな夢と、つづいていくこと、あなたがいること、あなたといること。春と、金麦と」とあった。レジャーシート、というのがただならないというか、ただならない。
未来の存在。未来の不在。私たちを未来へと導く。23時22分、『10:04』を開いている。また頭から少し読んでいた、教えてくれた人がそうして遊んだといっていたグーグルマップで出てくる場所を確認しながら読む遊びをすると楽しかった。ストリートビューまで使えばきっともっと楽しいがそこまではしなかった。
アパートのすぐそばまで行くと急に雨が降りだしたが、どちらかというと、まるでその辺りでは前から降っていて、僕らがビーズカーテンを分けるみたいにしてそこに入っていったように感じられた。突然風が強くなった気がしたのも、風に対する意識が高まったせいにすぎないのかもしれない。公園の前を通ったとき、二人の少女が顔を寄せ合ってこそこそと何かをしているのが見えた。僕はその子たちがたばこに火をつけようとしているのかと思ったが、二人が互いから離れたとき、それぞれ手に持った花火の火が白くまばゆいマグネシウムの炎色から徐々にオレンジ色に変わっていくのが見えた。少女たちが笑いながら花火で模様——ひょっとすると名前かもしれない——を描きながら公園を走り回ると、飛び散る火花に向かって小型犬がキャンキャンと吠えた。僕は急に、空をゆっくりと横切る翼端灯がないこと、そして着陸前の傾いた機内から街を見下ろしている人間がいないことを意識した。
ベン・ラーナー『10:04』(木原善彦訳、白水社)p.25,26
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